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 チョコレート・アンダーグラウンド
著者
アレックス・シアラー/著 金原瑞人/訳
出版社
求竜堂
定価
税込価格 1260円
第一刷発行
2004/06
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ISBN 4-7630-0420-4
 
本日5時以降チョコレートを禁止する。 「すべての人に、自由と正義とチョコレートを!」 チョコレート革命が始まった…
 

本の要約

舞台はイギリス。選挙で勝利をおさめた“健全健康党”は、なんと“チョコレート禁止法”を発令した!国じゅうから甘いものが処分されていく…。そんなおかしな法律に戦いを挑むことにしたハントリーとスマッジャーは、チョコレートを密造し、“地下チョコバー”を始めることにした!チョコレートがこの世からなくなったら、あなたはどうしますか?禁チョコなんて、ダイエットのときしかしたことない!読めばきっと、チョコレートが食べたくなる…。



オススメな本 内容抜粋

健全健康党

制服の男が、つぶれた店の窓に打ちつけた板に、公示ポスターを貼っている。
少年がふたり、その様子をまじまじと見つめていた。
男は、自分の腕前に感心するようにちょっと手をとめてから、少年たちに目をやって、あざけるような表情を浮かべた。
「これはな、おまえらのためなんだぞ!」男はうれしくてたまらないようだ。
「五時になったらな、もうチョコレートはもらえないんだ。だから、今のうちに味わっておけまだ持っているんならな。もう二度と手に入らないぞ。思い知るがいい」
男は刷毛とポスターを入れた袋を手に持った。
「リンゴさくさく気分を、同志よ」
(これは健全健康党が定めた新しい正式のあいさつだ。単に「さよなら」とだけ言うのは認められていない)
「ジューシーオレンジ気分をどうぞ」

少年たちは忠実にあいさつを返した。
「どうぞバナナを!」
男は答え、さっさと歩いていった。近くのバス待合所に、残りのポスターを貼りにいくのだ。
そんなポスターが本当に必要なわけではない。
その内容を知らないのは、死人か異星人くらいのものだ。
少年たちは告知ポスターを見た。
のりの中に空気の泡が入っているせいで、ところどころふくらんでいる。

本日五時以降チョコレ屡トを禁止する

今後、チョコレートは何人にも売買してはならない。
ただし、適正な医師の証明書がある場合はこのかぎりではない。
それ以外の場合、菓子やチョコレートの販売は、これを禁止とする。
違反した者は、、五千ポンドの罰金または懲役刑に処す。
これは行政命令である。

健全健康党発行

国民に選ばれた代表

(われわれは、よりよい健康及びよりよい歯のため、悪しき食生活による肥満や疾病の排除のために力をつくします)

ふたりは、立ったままその掲示を読み、もう一度目を通した。
「あ〜あ」スマッジャー・ムーアが言った。
「キャンディーが一個と、それから最後のチョコレートバーがあるけど、それがなくなったらおしまいだ。おまえは?」
ハントリーはポケットをさぐった。なめかけのレモン・キャンディーが一個、リコリスが一個、チューインガムが一枚。ハントリーは手をさし出して言った。
「これで全部。一生分のお菓子が、これだけだ。食べちゃったら、お菓子なしだよ」
「最悪だな」スマッジャーが言う。
「こんなことになるなんて。信じられない。なあ、どっか静かなとこを探して、全部食っちまおうよ」
ふたりは古い墓地まで行った。ぴったりの場所だ。ハントリーもスマッジャーも、葬式に行くような気分だったからだ。
ふたりは墓地に着くと、チョコレートを胃の中に埋葬することにした。
古い墓石の上にしんみりと座って、最後のお菓子を食べた。
大きな音をたててなめ、時間をかけてゆっくりかんで食べた。
できるだけ長持ちするように。
それから包み紙を手に取り、きれいになめた。近くのゴミ箱に包み紙を放りこんだりせずに、きちんとたたんだ。十ポンド札のように、ていねいにしわを伸ばし、小さく四角に折ってポケットにしまった。
「これで終わりかあ」スマッジャーが言った。
「今度、これが手に入るのは病気で死ぬまえだろうな。そのときだって、医者の処方箋ってやつが必要だしな」
「母さんの病院は今ごろそんな人たちでいっぱいだと思うな」
ハントリーは言った。
ハントリーの母さんは地域健康センターの医師だった。
「みんな、死にそうだって言って、チョコレート証明書をもらおうとしてるよ」
そのとおりだった。
ハントリーの母さん、キャロル・ハンター医師は、机に座り、担当患者のひとりと向き合っていた。
ミセス・スパイビーは、でっぷりしたご婦人で、その丸い顔には不安がはっきりとあらわれている。
「わたしには、どうしても証明書が必要なんですよ、先生」
ミセス・スパイビーはすがるような、おどすような声で言った。
「先生の証明をいただいて、五時以降もチョコレートが手に入るようにしないと、なにをしでかすかわからないんです。ほら、わたしは登録済みのチョコレート中毒患者でしょ。チョコレートがないと、禁断症状が出るんです。自分の髪をむしりはじめるかもしれないし」
そう言って目を細めた。
「ほかの人たちの髪まで、むしってしまうかも」
ハントリーの母さんは、同情するようにほほえんだ。
「残念ですけど、スパイビーさん。五時以降、チョコレートをもらえるのは、病気の末期でほかの栄養を吸収できない患者さんだけなんです。わたしの知るかぎり、スパイビーさんは、足の爪が肉に食いこんでいる以外は、どこも悪いところはないですよね」
ミセス・スパイビーの目が、針の先くらいに小さくなった。

 

(本文P. より引用)


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