プロローグ
日常の生活シーンの中で、ふと「こんなことができたらなあ」と思うようなことはありませんか。
たとえば、今、あなたが電車に立って乗っているとしましょう。
自分の前に座る乗客の何気ない「しぐさ」から、乗客がどの駅で降りるのかを察知する。できると便利だと思いませんか?
こんなことを頭に巡らしながら、私はときどき電車の中で乗客を観察しています。
すると、男女のしぐさに顕著な差があらわれることに気づきます。
女性は降りる駅に近づいてくると、バッグや傘などを手元に引き寄せたり握り締めたりする行為を一分ほど前からしはじめます。
これは、触感を重視する女性特有の行動パターンなのです。
一方、男性には違う行動パターンが見受けられます。隣の友人と話していても、しだいに会話が少なくなり、到着の数十秒前には降りることだけに集中して話をやめてしまうのです。
これは、「男性は複数の行為を同時にするのが女性よりも不得手」という、男女の脳の違いからくる特徴なのです。平行処理ができない男性たちは、おそらく乗り過ごしの経験が女性よりも多いはずです。
友人とおしゃべりしながら赤ちゃんをあやしてテレビを見るといったことは、女性ならではの特技ともいえますね。
本書では、このような何気ないしぐさや、行為の中に隠された心理と行動の法則を解説していきます。
簡単な心理テストや質問をチェックしながら、多くの心理ケースとそれに関連する実験を紹介し、自分、そして相手を知る手がかりを示しています。心理学の教科書によく出てくる過去の実験から最近の成果まで幅広く取り入れ、わかりやすい表現を心がけました。
個々にみればすでに批判されている点もあり、すぐれた認知科学の見方とはいえないものもあります。
しかし、今までに注目された心理実験のプロセスをたどってみることは、総合的なこころの科学の入り口でもあります。自分の関心事に心理学ではどんな見方がされているのか、比較しながら読み進めていけば、自分では解らなかった発見があるはずです。
人間の「多様性」を知ることと、それを「変える」営みこそ、認知科学の真髄なのです。
でも、難しい話は後回し!まずは興味のあるテストからチャレンジしてみましょう。
二〇〇三年一一月
認知科学者 匠 英
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Q01
毎朝顔を合わせているだけなのに気になってしかたがなくなるのはなぜでしょうか?
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─あなたが毎日決まって同じ場所で会う人を5人、
会社の同僚も含めて書いてみましょう(家族は除く)。
そして、その人に対して意識する度合いを5段階でつけてみましょう─
例)
営業部3課の○○先輩……5
直属の上司である○○さん……2
毎朝、コーヒーショップで出会う男性……4
ランチタイムを一緒にとる○○さん……3
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・_____________________________ 1 2 3 4 5
・_____________________________ 1 2 3 4 5
・_____________________________ 1 2 3 4 5
・_____________________________ 1 2 3 4 5
・_____________________________ 1 2 3 4 5
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A01 答え
⇒⇒⇒ こただ会うだけでも潜在的に相手の好感度は高くなるのです
点数の高い人が、あなたが気になっている人です。もしかしたら、あなたが本当に好きな人なのかもしれません
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片思いをしている人はいませんか?切なくつらい恋心を成就させたいと、毎日秘かに思い続ける日々……。それでも相手はなかなか気づいてくれない。
そんな人には、「とにかく好きな人と接触する機会をたくさんつくること」とアドバイスしておきましょう。
意外に簡単な方法ですね。
その理由は、何度も会っているうちにいつの間にか好きになってしまうという「単純接触の効果」にあります。
この言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、簡単にいえば、テレビに出ているタレントを何度も見ているうちに印象に残り、なんとなく好感を持ってしまったというのと同じです。
アメリカの心理学者ザイアンスの実験でも証明されています。
実験は、大学の卒業アルバムの中から抜き取った一二人の写真を使っておこなわれました。
被験者である大学生には「視覚による記憶の実験」と偽り、一二枚の写真を二秒間隔で見せていきます。
見せる順番と回数は任意で、一回しか見せない写真もあれば、何回も児せる写真もあります。
回数だけは一回、二回、五回、一〇回、二五回とし、すべての写真を見終わってから、それぞれの写真を再び見せて、好感度を評価させたのです。
結果は、二五回見せた写真の人にいちばん好感を持ったというのです。
見た回数が多くなれば、つまり接触回数が多くなれば、好感度があがったのです。
このほかにもザイアンスは、サブリミナルによる単純接触効果の実験もおこなっています。
それは、白い背景に黒で描かれた八角形をごく短い時問で五回提示し、その後、別の形の八角形も見せて、「どちらを以前見たことがあるか」また「どちらが好きか」と質問したところ、「以前見たことがある」はほぼ同じ数字を示したのに対し、「どちらが好きか」という質問では、サブリミナルで見せていた形のほうが好きだと答えた人が多かったのです。
このように、人はただの図形ですら繰り返し見るだけで好感を持つものなのです。
好きな人ができたら、なるべく多く顔を合わせる努力をすれば、恋は確実に前進します。
ただし、マイナスの印象からはじまると、逆効果ですから注意しましょう。
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