BOOKSルーエのおすすめ本 画像
 小説自殺マニュアル
著者
赤城修史/著 佐藤広行/著
出版社
太田出版
定価
本体価格 1280円+税
第一刷発行
2003/12
e-honからご注文 画像
ISBN 4-87233-818-9
 
あの禁断の大ベストセラー『完全自殺マニュアル』を完全小説化!!自殺の「真実」とタブーに迫る、超問題作。
 

本の要約

集団自殺の現場に残された「自殺マニュアル」と題された黒いDVD。それをきっかけに自殺が連鎖的に発生し、いずれの現場でも黒いDVDが発見される。検死官・辰巳はこの謎を追うが…。自殺の真実とタブーに迫る!


■著者紹介

・赤城 修史  1975年山形県生まれ。専修大学経済学部卒。現在、サラリーマン生活をしながら小説を執筆中。
・佐藤 広行 1975年山形県生まれ。山形商業高校卒業後、郵便局に勤務。

オススメな本 内容抜粋

「知らせなきゃダメだよ、親とか警察に。そうしなきゃダメだよ」
立体駐車場の踊り場で、ななみはニシコに寄り添い、肩を抱きながら必死に呼びかけた。
カナもユリコも、三人の男たちもふたりを置いてさっさとどこかへ去ってしまっていた。
ななみは放心状態で動けないニシコの側にいた。
悔しかった。
どうしてここまでエスカレートしたのか。
なぜ助けられなかったのか。
それどころかあたしはニシコをいじめる側にいた。
ニシコは涙も出ないくらいぼろぽろだというのに、本能がそうさせるのか、制服だけはきちんと身につけようとした。
震える手でのろのろと衣服を直すニシコに、ななみは手を貸すことすらためらわれた。
「今すぐ警察行こう。あたしも行く。ううん。一緒に行かせて」
出来の悪いあやつり人形となったニシコは、ただその場に座り込むしかできない。
ななみは泣きながらその肩を何度も揺すった。
目は開いているけど、夕日をただ反射させるだけのガラス玉でしかなかった。
それを見たら、おもわず声が出た。
「ごめんね」
謝ってどうするのPあたしが謝って、それで何かが変わる?この場で起きた出来事は、ニシコの身体に刻まれてしまっていた。
腿をつたう血と体液は絶対に忘れさせてくれない。
「ごめん!ごめん!」
それでもななみは謝るしかなかった。
声が詰まる。
喉の奥が切れそうなくらいに叫んでいた。
「ななみ、私ね」
ぽつりと、ニシコが眩いた。
「ずっと自殺しようかなって考えてたの」
感情が消えてしまったニシコの横顔は、なぜかひどく縞麗だった。
「中学の時、ちょっと本気になってたんだ。一度、カッターで手を切ろうとしたことがあるの。けど、結局ちょっと傷をつけただけ」
「ニシ、そんな話しないでよお」
ななみは懸命に首を振った。
ニシコはこんな子じゃない。
いじめられていたけど、決してななみの前じゃ弱音を言わなかったはずなのに。
「飛び降りとか首吊りとか、いろいろ考えた。でもできなかった。別にお母さんのためとか、お父さんのためとかじゃない。ただ私が怖かっただけ。痛いのがイヤなだけ。苦しい思いをしたくないだけ。臆病なんだ。だから今までだらだら生きてたの」
「違う。ニシはそんなんじゃない。いつもあたしを慰めてくれたじゃない。あたしの側にいてくれたじゃない」
ニシコの顔が、ゆっくりとななみに向けられた。
「ななみ。本気でそう思ってる?」
「何言ってるの?」
「あたし、そんないい人なんかじゃないよ。あんたも、あんたもね」
何も言い返せなかった。
「結局さ、ななみは何もできなかったね」
胸にきた。
その言葉は大きな爆弾だった。

(本文P. 6〜7より引用)


e-honからご注文 画像
BOOKSルーエ TOPへリンク


このページの画像、引用は出版社、または著者のご了解を得ています.

当サイトが引用している著作物に対する著作権は、その製(創)作者・出版社に帰属します。
無断でコピー、転写、リンク等、一切をお断りします。

Copyright (C) 2001 books ruhe. All rights reserved.