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 電子の星 池袋ウエストゲートパーク 4
著者
石田衣良/著
出版社
文芸春秋
定価
本体価格 1524円+税
第一刷発行
2003/11
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ISBN 4-16-322390-8
 
さらにエッジ鋭くマコトが池袋を駆け抜ける!!何者かに息子を殺害された老タクシー運転手の心の痛みが、ジャズの哀調にのって語られる作品など四篇収録。好評シリーズ第四弾!
 

本の要約

 今期直木賞を受賞、いま最も旬な作家の一人、石田さんの人気シリーズ「池袋ウエストゲートパーク」の第四弾です。
 表題作は、将来の見通しもなくネットの中にしか居場所のない山形の若者が、池袋で消息を絶った友を探しに上京。マコトやGボーイズの助けを得て奔走するうちに、自分の生きる場所を見つけ出すお話。都会の殺伐たる事件を扱いながら、それでも必死に自分の居場所を探す人達をクールな視線で描き出すのがこのシリーズの特徴。今作もその魅力が充溢しています。(文芸春秋編集部)



オススメな本 内容抜粋

不景気もどんづまりのニッポンで最高のヴェンチャービジネスがなにか、あんたは知っているだろうか?
夢も希望もある若いやつがいまだに目を輝かせ続々と参入している業界だ。
もちろんそいつはITバブル崩壊後のコンピュータ関連ではない。
最先端のソフトウエアやネットワークは必要ないのだ。
それどころか理工系の大学をでていなくても平気だし、キーボードのブラインドタッチなどなんの役にも立たない。
大切なのは舌とセンスと根気だけ(どんな仕事でも続けていくには多少の運は欠かせない)。
開業資金だってたかが知れてるし、ごく少人数でもスタートは切れる。人生逆転の一発勝負が狙える旬の職種だ。
こたえはなんと、ラーメン屋。
なかなか気のきいた話だが、最初にそれに気づいたのは残念ながらおれじゃない。
おれがコラムを書いてるファッション誌のカメラマンだ。
どこかのストリートブランドの新作を撮るときな ど、眉をきれいに整えた男性モデルでは格好がつかない。
こぎれいすぎて生活感が足りないし、本来青春がもっているはずの(ほんとか?)いちずさやピュアな感じが写真にでないという。
そこでカメラマンはロケハンをかねて、東京の街のあちこちでモデル探しをやるはめになる。
そして、やつはいい穴場を見つけた。
歩き疲れてふらりとのれんをくぐった池袋のラーメン屋。
きれいにふき清められたカウンターのむこう側で、アルミニウムの寸胴がぐつぐつと乳化したトンコツのうまみを濃縮している。
てきぱきと立ち働いているのは、きりりと締まった顔をした若い男が何人か。
髪は汗に濡れた藍染めの日本手ぬぐいでちゃんとまとめられている。
腹の底から響く声と麺のゆで具合を確かめる真剣な目つき。
一杯八百五十円の味玉チャーシュー麺で、いくらでもモデルオーディションができるカメラマン天国ってわけだ。
やつがその店でスカウトした店員ふたりが、この冬流行予定のフードにタヌキのボアをつけた黒いコートを着て早朝のグリーン大通りに立ち、二週間後には雑誌の表紙を飾ることになる。
ファッションなんて表面だけだなんていうけど、ちゃんと時代を映す鏡になっているよな。
芸能界で楽して生きようなんてモデルより、荒れた手で毎日百本もネギを刻むラーメン屋の店員のほうがカッコいい時代なのだ。
その証拠に池袋のラーメン屋ではいつだって店の外に長い行列ができている。
有名店の月間売上は天文学的な三千万円に迫るそうだ。
いい仕事をしてるやつをきちんと評価するシステムが確立している業界なのだ。
十年以上も沈みっぱなしのこの国で、補助金も談合もなしに、そんなこ
とがあたりまえにできる産業がほかにいくつある?
同じ店員仲間として、おれの鼻だって高くなるというものだ。

台風がいくつかとおりすぎて、狂った夏がいきなり秋に衣替えした十月の終わり、おれはタカシから電話を受けた。
そのときおれが宝石みたいに大切に店先に並べていたのは一個千円もするソフトボールサイズの新高梨だ。
売りものに傷がつかないようにざらりと荒い手ざわりをそっとおいて、携帯のフラップを開ける。
「今日もヒマか、マコト」
自慢じゃないがこの数年、うちの店は恒常的にヒマだった。
池袋の七不思議のひとつだ。
なんでくえているのかわからないさびれた商店街のなかの果物屋。
おれの給料が限りなく安いせいかもしれない。
うんざりしていった。
「店のまえに行列ができてるよ。おれから買うとなぜか糖度が十パーセントはあがるんだって。魔法の手だな」
ストリートギャングの王様はあっさりとおれの冗談を無視する。
「なるべく早い時間に会えないか。今、おれは七生にいる」
七生はこの七月、激戦区池袋東口にオープンしたラーメン屋だ。
店のオーナー兼した働きはなんとGボーイズを卒業したあのツインタワー1号2号。
開店当初はおれも古いよしみでよく顔をだしていた。
「ふーん、なにかおれに仕事でもあるのか」
タカシは不機嫌そうにいった。

(本文P. 9〜11より引用)

 

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