今期直木賞を受賞、いま最も旬な作家の一人、石田さんの人気シリーズ「池袋ウエストゲートパーク」の第四弾です。 表題作は、将来の見通しもなくネットの中にしか居場所のない山形の若者が、池袋で消息を絶った友を探しに上京。マコトやGボーイズの助けを得て奔走するうちに、自分の生きる場所を見つけ出すお話。都会の殺伐たる事件を扱いながら、それでも必死に自分の居場所を探す人達をクールな視線で描き出すのがこのシリーズの特徴。今作もその魅力が充溢しています。(文芸春秋編集部)
台風がいくつかとおりすぎて、狂った夏がいきなり秋に衣替えした十月の終わり、おれはタカシから電話を受けた。 そのときおれが宝石みたいに大切に店先に並べていたのは一個千円もするソフトボールサイズの新高梨だ。 売りものに傷がつかないようにざらりと荒い手ざわりをそっとおいて、携帯のフラップを開ける。 「今日もヒマか、マコト」 自慢じゃないがこの数年、うちの店は恒常的にヒマだった。 池袋の七不思議のひとつだ。 なんでくえているのかわからないさびれた商店街のなかの果物屋。 おれの給料が限りなく安いせいかもしれない。 うんざりしていった。 「店のまえに行列ができてるよ。おれから買うとなぜか糖度が十パーセントはあがるんだって。魔法の手だな」 ストリートギャングの王様はあっさりとおれの冗談を無視する。 「なるべく早い時間に会えないか。今、おれは七生にいる」 七生はこの七月、激戦区池袋東口にオープンしたラーメン屋だ。 店のオーナー兼した働きはなんとGボーイズを卒業したあのツインタワー1号2号。 開店当初はおれも古いよしみでよく顔をだしていた。 「ふーん、なにかおれに仕事でもあるのか」 タカシは不機嫌そうにいった。
(本文P. 9〜11より引用)
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