BOOKSルーエのおすすめ本 画像
 姉飼
著者
遠藤徹/著
出版社
角川書店
定価
本体価格 1200円+税
第一刷発行
2003/11
e-honからご注文 画像
ISBN 4-04-873499-7
 
選考委員への挑戦か!? 挑発的作風、注目の第10回日本ホラー大賞受賞作!
 

本の要約

脂祭の夜、まだ小学生だった僕は縁日ではじめて姉を見る。姉は皆、体を串刺しにされ、髪と爪を振り回しながら、凶暴にうめき叫んでいた・・・・・・。諧謔的表現と不可思議なフリークス世界、かつてないホラー小説誕生!



オススメな本 内容抜粋

ずっと姉が欲しかった。
姉を飼うのが夢だった。
脂祭りの夜、出店で串刺しにされてぎゃあぎゃあ泣き喚いていた姉ら。
太い串に胴体のまんなかを貫かれているせいだったのだろう。
たしかに、見るからに痛々しげだった。
目には涙が溢れ、口のまわりは鼻水と灘でぐしょぐしょ。
振り乱した真っ黒い髪の毛は粘液のように空中に溢れだし、うねうねと舞い踊っていた。
近づきすぎる客がいれば容赦なくからみつき、引き寄せる。
からみつく力は相当なもので大の男でも、ずりずりと地面に靴先で溝を掘りながら引き寄せられていく。
ついには肉厚の唇の内側に、みごとな乱杭歯が並ぶ口でがぶり。
とやられそうになるのだが、その直前に的屋のおやじたちがスタンガンで姉の首筋をがつんッ。
とやるので姉は白目を剥いてぎょええええッとこの世のものならぬ悲鳴をあげる。
だからほんとうに客が噛まれるようなことは滅多にない。
もしほんとう に噛まれたとしたら大変だ。
まず間違いなく噛まれた部分は食いちぎられてしまう。
噛みついた後では、いくらスタンガンで痛めつけてもその顎の力を緩めることはできない。
みごとに歯形のかたちに肉を噛みちぎられ、客は悲鳴をあげることになるだろう。
痛みに転げまわる客を見て、他の姉らは笑い狂うに違いない。
そして、当の姉は食いちぎった生肉をうまそうに噛みしめ、そして完全にかたちが失われないうちにごっくんッと丸呑みするだろう。
髪の毛以外にもうひとつ、姉らに特徴的なのは爪だった。
爪もまた伸び放題に伸び、ある姉などは、湾曲した七十センチにもおよぶ手足の爪を乱暴に振りまわしたりしていた。
ぼうようとした霧に覆われた子供時代の記憶のスクリーンが時折気まぐれに焦点を結ぶ。
そこでは、ゆきかう家族連れやアベックたちが、しばしこの姉らの前に立ち止まっている。
というよりもむしろ足がすくんで動けなくなるのだ。
姉らが形相凄まじく荒れ狂うさまを嫌悪に眉をひそめ、好奇心に瞳孔を見開き、口元には嘲笑を浮かべ、子供や恋人を握る手には恐怖をにじませて見つめていたものだ。
姉らを貫く串からは、絶えず血がしたたって、地面の上には、赤い染みが次第に大きくなってゆく。
その染みの広がりだけは今でも記憶のスクリーン上に動画状態で再現することができる。

─なあに、こいつらたいして痛がっちゃいないさあ。
むしろ、だんだん気持ちよくさえなってるくらいでね。
ほらね、この興奮ぶりを見りゃわかるだろ。こいつら痛い目にあうのが三度の飯より好きなんさあ。
虐待ではないのかと詰め寄った学生風の青年の目の前で、的屋は姉の両頬を大きな音をたててはたいてみせた。
姉は激しく怒ったとも、笑ったともとれるようなひどい顔をし、悲鳴とも、威嚇とも、歓喜の叫びともとれるようなぎょぐえええっという音を発して、的屋を睨めつけ歯を剥いた。
ほら、悦んでやがるだろ、と凄む的屋に、そんなことはない、いやがってるじゃないかとなおも詰め寄った学生風は、「ほな、にいちゃん、ちょっと話し合おうじゃないさあ」と屋台の裏に連れ去られた。
そこで数人の的屋に取り囲まれて
「痛いってのはこんなのをいうのさあ」と、教育される羽目になったらしい。
この噂には、さらなる後日談もある。
その若者の手足は切り落とされて姉らの餌にされたというものだ。
そのうえ、口うるさい舌は抜き取られ、生殖器は残されて、姉らの夜の達磨にされたともいう。
が、誰もその現場を見た人はいないので、ことの真偽は定かではないのだけれど。
そんなわけで、姉らを捕獲して飼っているのは、的屋のなかでもかなりやばい人たちだということは誰もが知っていた。

(本文P. 7〜9より引用)

 

e-honからご注文 画像
BOOKSルーエ TOPへリンク


このページの画像、引用は出版社、または著者のご了解を得ています.

当サイトが引用している著作物に対する著作権は、その製(創)作者・出版社に帰属します。
無断でコピー、転写、リンク等、一切をお断りします。

Copyright (C) 2001 books ruhe. All rights reserved.