脂祭の夜、まだ小学生だった僕は縁日ではじめて姉を見る。姉は皆、体を串刺しにされ、髪と爪を振り回しながら、凶暴にうめき叫んでいた・・・・・・。諧謔的表現と不可思議なフリークス世界、かつてないホラー小説誕生!
─なあに、こいつらたいして痛がっちゃいないさあ。 むしろ、だんだん気持ちよくさえなってるくらいでね。 ほらね、この興奮ぶりを見りゃわかるだろ。こいつら痛い目にあうのが三度の飯より好きなんさあ。 虐待ではないのかと詰め寄った学生風の青年の目の前で、的屋は姉の両頬を大きな音をたててはたいてみせた。 姉は激しく怒ったとも、笑ったともとれるようなひどい顔をし、悲鳴とも、威嚇とも、歓喜の叫びともとれるようなぎょぐえええっという音を発して、的屋を睨めつけ歯を剥いた。 ほら、悦んでやがるだろ、と凄む的屋に、そんなことはない、いやがってるじゃないかとなおも詰め寄った学生風は、「ほな、にいちゃん、ちょっと話し合おうじゃないさあ」と屋台の裏に連れ去られた。 そこで数人の的屋に取り囲まれて 「痛いってのはこんなのをいうのさあ」と、教育される羽目になったらしい。 この噂には、さらなる後日談もある。 その若者の手足は切り落とされて姉らの餌にされたというものだ。 そのうえ、口うるさい舌は抜き取られ、生殖器は残されて、姉らの夜の達磨にされたともいう。 が、誰もその現場を見た人はいないので、ことの真偽は定かではないのだけれど。 そんなわけで、姉らを捕獲して飼っているのは、的屋のなかでもかなりやばい人たちだということは誰もが知っていた。
(本文P. 7〜9より引用)
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