炎と氷
著者
新堂 冬樹 著
出版社
祥伝社
定価
本体価格 1800円+税
第一刷発行
2003/10
ISBN 4-396-63237-1
 
これまでの新堂作品は、この作品のための序章に過ぎなかった… 貸すも地獄、借りるも地獄―― この地獄は、他人(ひと)ごとではない! ヤミ金融対策法実施! だが、この底なし沼からは逃れられない… 社会問題化する闇金の実態を描破した 衝撃の問題作! 金融のプロ・森永卓郎氏、借金のプロ・加治将一氏、読み手のプロ・西上心太氏 各氏絶賛! <祥伝社ノン・ノベル創刊30周年記念特別作品>
 

貸すも地獄、借りるも地獄 この地獄は他人ごとではない。有無をいわせぬ暴力で債務者を恐怖に陥れる競馬金融を営む“炎の男” 世羅武雄。冷徹な頭脳で闇世界の制覇を目論む風俗金融を営む“氷の男” 若瀬勝志。かつての親友同士が袂をわかったとき壮絶な戦いの幕がきって落とされた!≪「小説non」連載小説単行本化、単行本発売と同時に「漫画サンデー」誌上にてコミック連載も決定!≫

有無をいわせぬ暴力で債務者を恐怖に陥(おとしい)れる、競馬金融を営む“炎の男”世羅(せら)。
冷徹な頭脳で闇世界の制覇を目論む、風俗金融を営む“氷の男”若瀬(わかせ)。
かつての親友同士が袂(たもと)を分かった時、壮絶な闘いの幕が切って落とされた…。
ストーリー、キャラクター、社会性、ともに文句なし。
この結末に、あなたは必ず震撼する!


*********各界のプロからの賛辞続々!*********
なんという過酷なヤミ金融の世界。
本書を読むことは、年収300万円時代を生きる者にとって最上の防衛策になるだろう。
森永卓郎氏
(経済アナリスト・『年収300万円時代を生き抜く経済学』著者)

アンダーグラウンド化を続ける凄まじきヤミ金融の取り立ての実態が描かれている。
彼らには警察も法律も関係がない。
悪いことはいわない。
ヤミ金だけにはカネを借りないほうがいい。
加治将一氏
(作家・『借りたカネは忘れろ!』著者)

ヤミ金融界のトップを目指す、二人の<究極のリアリスト>の凄まじい争いが始まった。
謀略、裏切り、血飛沫、そして絶叫。
フルスロットル、ノーブレーキの新堂節が炸裂する。
もう誰にも止めることはできない。
本書を読まずして、闇のピカレスク小説を語るなかれ。
西上心太氏(文芸評論家)
1レース数分にして利息5割――分5(フンゴ)と呼ばれる暴利の競馬金融を営む世羅(せら)。
親友の若瀬(わかせ)と共に、九州から闇金融の頂点を目指し東京に進出して来た彼は、情け容赦のない追い込みで同業者からも怖れられていた。
普段はギャンブル狂ばかりの顧客の中に、ある時現れたのが、堅物の銀行マン・赤星(あかほし)だった。
行内の融資を担保に200万貸してほしいという。
だが、その陰には融資強奪の計画があり、絵図を描いていた男こそ、盟友の若瀬だった。
彼は風俗金融と呼ばれる風俗嬢専門の闇金融を経営し、客のキャバクラ嬢に入れ込んでいる赤星の情報を嗅ぎつけ、退職金をもろとも剥(は)ぎ取とろうとしていたのだ…。
カネとプライドをめぐり、運命の歯車が軋(きし)み音をたてはじめた時、 “炎と氷”二人の凄絶な闘いが幕を開けた!
鬼才・新堂冬樹が満を持して贈る超絶のエンターテインメント!

【著者紹介】
大阪生まれ。金融会社勤務を経て、現在はコンサルタント業を営む傍ら執筆を続ける。
『血塗られた神話』で第七回メフィスト賞を受賞してデビュー。
2000年刊行の『無間(むげん)地獄』で闇金融の凄まじい実態を迫力の筆致で描き、大反響を呼ぶ。
著書に『溝鼠(どぶねずみ)』『カリスマ』『鬼子』『闇の貴族』『ろくでなし』など。


[1]

濃霧のように立ち籠める紫煙。
あちこちから飛び交う歓声と怒号。実況アナウンサーの絶叫を撒き散らす、テーブル上の小型携帯テレビ。
丸めた競馬新聞を振り回し馬番を連呼する不動産会杜勤務の篠田、アイスコーヒーのストローを食いちぎらんばかりに噛み締める印刷会社勤務の橋本、立ち上がり、騎手に罵声を飛ばすピンサロ経営者の上島、胸前で掌を重ね合わせ祈るような視線を画面に送る中学校教師の三輪どいつもこいつも、瞼をカッと見開き、第四コーナーを回り直線を向く十六頭のサラブレッドを食い入るようにみつめていた。
八月。
第一土曜日。
新潟競馬第六レース。サラブレッドニ歳の新馬戦。
芝、千六百メートル。
WINS渋谷から徒歩五分の位置にある喫茶店、オアシス。
世羅は、いつもの席店内を入って右手、最奥の四人用のテーブルをふたつ繋ぎ合わせた壁際のソファに腰を下ろし、アドレナリンを撒き散らす債務者達に蔑視を注いでいた。
そう各々の夢を運ぶサラブレッドに声援を送る四人は、世羅が経営する競馬金融、七福ローンの債務者だった。
競馬金融とは、その名の通り馬券購入者を対象とした闇金融だ。
融資金額の上限は五万。
返済期日は、債務者がレースに勝てばその場で馬券を換金して即回収。負ければ、土曜開催に貸した債務者が翌週の木曜日、日曜開催に貸した債務者が翌週の金曜日までを期日とする。
レースに勝っても負けても利息は五割。
故に、融資を受けた直後のレースで勝った債務者は、僅か数分後に返済することから、分五と呼ばれる恐ろしい利率になる。
レースに負けた債務者はなぜに翌週の木曜日や金曜日が期日かといえば、週末までもつれ込ませないためだ。
週末一土日は、中央競馬の開催日だ。
競馬狂の欠点は、手もとにある金をすべてレースに注ぎ込んでしまうこと。
土日を返済日にしてしまえば、必死に掻き集めた七福ローンの返済金をレースで溶かしてしまう恐れがあるからだ。
集客法は、場外馬券場の近辺の電話ボックスやマークシート置き場などにチラシを貼り、また、置くだけ。
あとは、まりえにチラシ撒きをやらせるくらいだ。
サラ金のように、高い広告費を払ってスポーツ新聞に載せる必要はない。
七福ローンが相手にする客は、競馬狂。
競馬にかぎらずギャンブルは、嵌まれば嵌るほどプラスよりマイナスを生み出す。
トータルで賭け手が胴元に勝つ可能性は皆無に等しい─つまり、七福ローンの顧客は万年金欠状態というわけだ。
もともと、一般の金貸しの申込客でも、金の使い途の御三家はギャンブル、酒、女だ。
その御三家の中で、最も金回りが忙しいギャンブルにどっぷりと浸かっている愚か者を、世羅はカモとして選んだ。
『カツラダイシンが抜け出したっ、大外からフジノタケマルオーっ、最内からモノグライザーっ。三頭並んだっ、三頭並んだっ』
「いいぞっ、三番、三番っ、三番っ!」、「ほれっ、行けっ、行けーっ」、「六番っ、なにしてるっ、こらっ、馬鹿!」、「差せ、差せっ、差せえーっ」。
最高潮に達する実況アナウンサーの絶叫、店内の客と債務者達の歓声と怒号に甲高い電子音が割って入った。
世羅は、右手に携帯電話、左手にビールのグラスを持ち、画面の中のサラブレッドのゼッケンを追った。
『あのう、お金を借りたいんですが……』
疫病神に取り愚かれたような、覇気のない声。オアシスに入って僅か三十分の間で、五人目の申し込み。
うち四人は、小型携帯テレビを囲み口角沫を飛ばしている。
WINS渋谷へと続く並木通りでまりえが撒くチラシは効果覿面だった。
「いくら、ほしかとや?」
腹に響く九州弁で、世羅は訊ねた。
熊本から上京して五年。
どうしても、軟弱で気取り済ました東京弁に馴染めなかった。

(本文P.3〜5 より引用)


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