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著者
林 真理子 著
出版社
小学館
定価
本体価格 1600円+税
第一刷発行
2003/11
ISBN 4-09-393304-9
 
大手商社に勤める33歳の独身OLがふとしたことで知り合った夫婦は心に深い闇を持っていた。読み進むうち明らかにされていく真実、次から次へと起こる事件。不倫、セックス、泥沼の恋。恋愛ホラーともいうべき衝撃長編。
 

働く女性にカリスマ的人気を誇る著者が、恋愛ホラーともいうべき新ジャンルを確立した、待望の恋愛長編小説。
33歳の総合商社OL=奈央子は後輩からも慕われる“姉御”的存在。その主人公がふとしたことで知り合った夫婦は心に深い闇を持っていた。
読み進むうちに明かされる真実、次から次へと起こる事件の数々。
合コン、セクフレ、不倫、泥沼…この小説の中には、女性ならだれしも経験してきた、思い出すだけで“痛すぎる”恋愛のすべてのパターンがある。
ファッション誌『Domani』連載中、丸の内OLの間に“anego系”という言葉や“anegoメール”なる現象まで生み出した、大人気小説。
読み続けて最後の1行に至るとき、背筋まで凍り付くような濃密な愛の姿が見えてくる。



第一章

合コンの捉

終電ふたつ前の電車は思ったよりも混んでいた。
ネクタイをだらしなくゆるめ、酒のにおいをさせているサラリーマンが多い。そうした男たちに混じって、ぽつんぽつんとOLが座っでいる。
いつもの時問帯よりも身構えているのが、キュッと握ったハンドバッグや、じっと目を凝らしている雑誌でわかる。
景近は女性専用車というものも増えているが、この鉄道会社はそんなやさしいことは考えていない。
このあいだどこかの番組でやっていたが、痴漢が出る路線の第二位という栄巻一.一を担っているほどだ。
糠謡ま・遅い電車の中で身を固一する若い0Lとは年季が違う。
いちばん端の席を確保し、肘をついて楽な姿勢をとった。
前に誰も立っていないから、まるで鏡のように夜の窓に奈央子が映っている。
幸い日頃気にしている小撃、口のまわりのたるみといったものは見えず、そこにいるのは確かにまだ若い女である。
誰が児てもまだ若い女のはずである。
それなのに男たちの視線というのは、何と厳しく正確なものだろうか。
今夜の飲み会は、見事に告い女からさばけていった。
二次会のカラオケの時、彼女たちはいったいどういう魔法を使ったのであろうか。
べったり傍に座っていたようにも見えないのに、めあての男とちゃんと話をとおしていた。
帰り際、二組のカップルが出来ていたのだ。
「じゃ、私、帰り道なんで宮本さんに送っていってもらいます」
ちょっと待ってよ、あんたのうちが横浜に帰る人の、どうして帰り道なのよ、などと言わないのは合コンの基本のルールである。
男の方は会社のタクシi伝票を使うつもりらしい。今どきそんなところは珍しいが、さすがは業界第一位のゼネコンだ。
週刊誌で書かれているほど不景気なこともないらしく、慣れたようにタクシーを停めた。
「すいません、それじゃお先に」
「みんな、ごめんね。でもオ、うち遠いから」
手をふる彼らに機嫌よく手をふるのも、あぶれた者のルールといおうか礼儀である。
そして奈央子は他の数人と駅の改札口を入り、ふたつめの駅で乗り換えてひとりになった。
そして酒の酔いと疲れでぐったりと座ったところだ。
楽しい飲み会ならば快い疲れがくる。
けれども空しい時間を過ごした後の、この疲労感はどう言ったらいいのだろうか。
「あーああー、私ってまたやっちゃった…」
奈央子は年寄りくさいため息をついた。
全くどうして、いつもこんな役まわりばかりまわってくるのだろうか。
あれは一ヶ月前のことになる。大学のサークルで一緒だった中西から電話があった。それは近々出席することになっている同級生の結婚披露宴についての、どうということもない問い合わせであった。

(本文P.6〜7 より引用)


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