トーキョー偏差値
著者
林真理子/著
出版社
マガジンハウス
定価
本体価格 1000円+税
第一刷発行
2003/09
ISBN 4-8387-1404-1
 
美女入門シリーズ第4弾
 

美女入門シリーズ第4弾、タイトル、装丁を新たにして遂に登場!すべてを手に入れた美人女流作家マリコの新たな試練とめくるめく東京セレブの日々に注目



私は賛沢な女

「色気より食い気」とはよく言ったもので、最近の私は、昔ほど男の人に胸がときめかなくなり、その分、おいしいもののことばかり考えている。
私は食費にものすごくお金を遣う。
気を遣ってご馳走されるよりも、自分で好きなものをたらふく食べた方がずっといいからだ。
私は最近ダイエットのため、アルコールを飲まない。
その分、舌が敏感になり、まずいもんはイヤッという感じである。
流行のお店にもすぐ行くし、雑誌においしい、と出たところは切り抜いてとっておく。
が、雑誌のああいうグルメ記事はあてにならないことが多い。
何年か前に「オムライスのおいしい店」というのがあり、男友だちとさっそく出かけていった。
ところが、靴を脱いで上がるようなシャビーな店だ。
しかも普通の家を改装しているので、私たちは階段の下に座らされた。馴じみのお客らしいのがグループで来ていて、カウンターに陣どっている。
そういう人たちを相手におじさんは、
「いやあー、最近うちもマスコミに出ることが多いから、一見さんが増えて……」
とか言って、自慢しているではないか。おまけに肝心のオムライスが来るまでにいろいろ食べなくてはならないコースになっていて、どれもすごくまずかった。もちろん、二度と行っていない。
そういえばダイエットを始めてから、オムライスはずうっと食べていないわ。お鮨もパンも、私の好きなアンコものも食べていない。せめて中華やフレンチといった、でんぷん質と甘みのないものはたっぷり食べましょう(へんな理屈だが)。
中華といえば、ケチな男と一緒に中華料理を食べるくらい悲しいことはない。
お昼でもなくディナーに、ちゃんとした中華レストランに招いておいて、
「ひとり好きなお皿をひとつずつ取って、あとはおソバかチャーハンにしましょう」
と言われるぐらい悲しいことはない。一皿にあとチャーハソなんて、学生のディナーみたいじゃないか。
そういう時は、
「私が払うから、もっといっぱい注文しましょうよ」
と言いたくなってくる。
ついこのあいだは、出来たばかりの麻布の素敵なお店へ行った。
一緒に行った彼とは割りカンで食べる仲なので、好きなものを注文しようと思った。
ところが彼は、

(本文P.8〜9 より引用)


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