表題作の他「甘夏キンダガートン」「アカシック・レコードに乗せられて」を収録。力強くて繊細で、ちょっぴり切ない珠玉短編小説集。
なぜそう呼ばれているのかはわからない。 ものの名前は理由のつけられないものの方が多いから、それでいいんだろうと思う。 昼頃目がさめたら、窓があいていた。暑くもなく寒くもなく、風が入ってくるから、俺はずっと窓の外を見ている。 隣の家に生えているびわの木が、手のとどきそうなところにあって、熱帯雨林の中にいるみたいなんだ。 玄関のほうではまたドクターが、女を殺しておかしているようだ。 ドクターはいろんな女といつもいっしょにいる。 肌が白かったり、黒かったり、歯が出ていたり、毛むくじゃらだったり、毛がまったくなかったり、ときどきは女に似た違うものだったり。 丸っこい花瓶とか、眠たそうにしてる鶏鵡とか、プチプチ空気の入ったビニールのきれっぱしとかね、とにかくいろいろだ。 そして、そういったものたちとドクターは、食事したり、眠ったり、性交したり、談笑したり、殺しあったりしている、きっと俺の見ていないところではもっといろいろやっているだろう。 俺には想像力とか、そういうたぐいのものが欠けているんだと思う。 だから、考えたりしないけれど。 でも、ドクターはいいなあ。いろんなやつらといろんなことができて。 そう思ったから、俺はドクターにそう言った。 そしたらドクターは「何だよ、おまえもやりたいんか」とかそんなふうなことを言った。 ドクターの言うことはいつだって具体的だ。 やってることだってなんだか具体的に見える。 そのときもメガネに飛んでくる返り血をぐいぐいぬぐいながら、一生懸命性交していた。 そう、ドクターは決してメガネをはずさない。 風呂に入るときも、寝るときも。 日焼けした大男が、そんなこだわりを持ってるなんて、とおかしく感じる人も多いようだ。 あなたはどう思う?わからない?とりあえずドクターを見てみたい? ほら。見える?
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