時効
著者
北野武/著
出版社
ロッキング・オン
定価
本体価格 円+税
第一刷発行
2003/09
ISBN 4-86052-025-4
 
もう話してもいい頃かもしれない
 

もう話してもいい頃かもしれない・・・。「オールナイトニッポン」から幕を開けた第2次黄金期、彼は何を創り、何を壊したのか?ビートたけしの発明、功罪、狂騒、いまだから語る芸人としての自殺、そしてアメリカに透視する人間の敗北。すべてを語り尽くす56年目の自叙伝。

SIGHTの連載を独り語り形式でまとめた自叙伝、その名も『時効』! 『オールナイトニッポン』から幕を開けた第二次黄金期に彼は何を創り、何を壊したのか? たけしの発明、功罪、狂騒、いまだから語る芸人としての自殺、そして芸人として終わるとき―――ツービートからビートたけしになり、やがてシリアスな表現者・北野武へと転生していく、その芸人としてのヒストリーを振り返る内容です。もちろん単行本初収録となるエピソードも満載。ラジオ/お金/車/ゴルフ/アメリカ/受験/コンピューター/老いという8つのテーマをめぐる告白録です。



漫才ブーム、終焉

ラジオねえ……そんたに熱心に聴いてたわけではたいよね。
夕方学校から帰って、『少年探偵団」とか、大相撲とか、落語とかさ、そういうのを聴いてたくらいかたあ。
でも、晩ごはん食ったりなんかしたら、おふくろに消されちゃうしさ。
まあ、それしか娯楽ないんで、喜んで聴いてたことは聴いてたけどね。
ラジオの深夜放送聴いて受験勉強するとか、そういう世代では全然ない。
だって、俺が漫才をやりはじめる直前じゃないかなあ、糸居五郎の『オールナイトニッポン』とか、ナッちゃんチャコちゃんの『パック・イン・ミュージック』とか、あんなのが流行ってたのは。
芸人でも、ラジオ番組なんてのは笑福亭鶴光さんがやってたくらいでさ。
知ってはいたけど、別に俺はリスナーでもたんでもなかったしね。
たんにも興味たかった。
俺が芸人にたった後も、その当時ラジオの漫才なんて、ものすごくマイナーだったね。
売れる前にちょっと出ようかたっていう、その程度のもんでしかなかったよね。
ほいで収録に行ったら行ったでさ、テレビに行けたかった落ちこぽれみたいなディレクターがいんだよ(笑)。
なんか、かわいそうになってくるじゃない?
だって、もうテレビの時代たのにラジオの演芸やんたきゃいけたいんだもん。
そいでまた、そいつらが売れてたい芸人にすごい冷たいわけよ。
「おまえら演芸場で面白いんだってたあ、やってみろ」
「それ、ネタ見せってことですか?」
「ああ、それだそれだ」って言われて。
「ああ、俺らはネタ見せってやんたいんですよ。だっていつも演芸場出てんだから、番組で使う気になりゃ演芸場に観に来て、よけりゃあ使うべきで。俺らはラジオの仕事だから来たんで、ネタ見せからなんてやらねえ」って腹立てて、俺、相棒連れて帰っちゃったの。
「帰ろう帰ろう、バカヤロi!出るわけねえじゃねえか、こんたセコいラジオ!」ってさ。
そしたら、その人、相当こたえたらしくて(笑)。
「なんだコノヤロi!二度とおまえら使わねえぞ!」とか言われたんだけど、三ヵ月か四ヵ月後に漫才ブームがワーッときてさ。
また、そいつが頼みにきたっていう(笑)。
だから、芸人としてのラジオ体験なんてほとんどない。
たまに寄席専門のラジオの番組に出たことあるくらいだよ。
全日空の飛行機の中で流すやつとかさ、あるじゃない?
でも、ほとんど使ってもらえなかったよ(笑)。
「落ちちゃうと鼻がとれるんですよね」とかね(笑)、そんたネタぱっかし言ってたから。

(本文P.16〜17 より引用)


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