牢屋でやせるダイエット
著者
中島らも/著
出版社
青春出版社
定価
本体価格 1300円+税
第一刷発行
2003/08
ISBN 4-413-02163-0

 
心が雨漏りする日には ・・・・ くたばれ、うつ病!
 

独房に拘置された22日間を描いた、中島らもの復活作。不良囚人だった著者が、次第に事件を振り返り、自分自身を見つめなおしていく心の変化を描く。



目覚めると、そこに男が立っていた

シャ力はボダイジュの下に結界(バリアー)を張り巡らせました。瞑想の妨げとなる入、鳥獣などを退けるためです。
このために森の鳥や獣たちはバリアーにコツンと頭をぶつけて、そこを避けて通るようになりました。
おかげでシャ力の瞑想は進み、ついには「無は無い」という境地に達するまでになりました。
ところがある日、ゴマを三粒持ったリスが、ピョンピョンとバリアーの中に入ってきました。
シャ力は不思議を覚えて、
「汝は、如何にしてこのバリアーを抜けて来たのか」
と尋ねました。
リスはピョコンとお辞儀をして言いました。
「このバリアーは、心外に張られたものではなく、御身の心内に張られたものです。
だから私はこうやって来られたのです」
シャ力は笑ってリスの手から三粒のゴマを受け取りました。
そして、その一粒を口に含まみ、もう一粒をリスに与えました。
「この最後の一粒は地に播くとしよう。そして芽吹き、実を結ぶのを一緒に見守ろう」
真夏の白い昼下がりのことでしたー。
雑音で目が覚めた。
誰かが家の中に入ってきているらしい。
それも一人ではない。複数の人間の気配がする。
どうせ訪問販売か宗教の勧誘だろう。
応対は妻に任せておれは再び眠りの世界に戻ろう
とした。しかし彼らはあまりにしつこく騒々しい。
家の中にまで入ってくるとは無礼な奴らだ。
おれは目を閉じたまま怒鳴った。
「誰ですかっ!?」
ヒゲ面の男がおれのベッドをのぞき込んだ。
「何者だ」
「厚生労働省麻薬取締部だ」
おれは血圧が高いので寝起きはいい方だ。
頭はすぐ冴える。
「免状を見せろ」
ヒゲ面の男はジャンパーから免許証のようなものを出してかざした。
確かに麻薬取締官、通称マトリの免状だった。名前は松原とある。
「あんたはコンバットという雑誌を見たことがあるか」
「いや、ない」
「あれの広告面には、ありとあらゆる武器の宣伝がのっている。
ケーサツ官の手帳もマトリの手帳も通販している。
あんたが本物のマトリ、松原であるという事実を同定する証拠がどこにある。本局に電話しても意味がないだろう」
「それは……」

(本文P.12〜13 より引用)


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