少年カフカ 村上春樹編集長
著者
村上春樹/著
出版社
新潮社
定価
本体価格 950円+税
第一刷発行
2003/06
ISBN 4-10-353415-X
 
『海辺のカフカ』が10倍楽しめる最初で最後のマガジン、遂に刊行! 小説論、進路相談からプロポーズの指南まで、読者から寄せられた多数の質問・感想に、村上春樹が答えた怒濤のメール1220通!
 

編集長から;ドキュメント『海辺のカフカ』公式ホームページと単行本発売までの全記録;こんなメールがありました;Author’s Voice;特別インタビュー 村上春樹、『海辺のカフカ』について語る;読者−村上春樹;『海辺のカフカ』ができるまで 加藤製本見学記;『海辺のカフカ』Goods大集合;もし『海辺のカフカ』がお芝居になったら、あなたは誰の役をやりたいですか?;メールタイトル総覧;ホームページ閉鎖のご挨拶;編集後記



13歳、15歳、70歳の読者から。イタリアから。韓国から。シンガポール、スイス、アメリカ、台湾、イギリス、ドイツ、チュニジア、スペイン、タイ、カナダから。

 ロックファン、クラシックファンの読者から。トライアスリート、ホステス、郵便局員、編集者、新聞記者、スチュワーデス。中日ファン、広島ファン、ヤクルトファン。ドーナツ研究会会長、幽体離脱経験者から。

『海辺のカフカ』が面白かった人、そうでなかった人、村上春樹がまあまあ好きな人。ハルキさんを夢で見た人、コンパのネタにする人。

『海辺のカフカ』を親子で読んだ人。親子で読むか悩んだ人。文庫になるまで待つ人。出産した人。受験生。

 この人たちの共通点は、「ハルキさんにメールを出した人」。

 村上春樹を初めて読む人には、どの作品を薦めたらいいか? 作家志望の人へのアドバイスは? 小説論から、進路相談やプロポーズの指南まで。さまざまな読者のさまざまな意見、質問に村上春樹が答えた1220通のメール、一挙公開!


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Mail no. 003
最初の読了メール
Thursday, September 12, 1:48 AM

 さっき読み終わりました。
 ・・・・・・・・・・・・良かったです。とても良かったです。
 考えがまとまってから、興奮が落ち着いてからメールしようと思ったのですが、いてもたってもいられなくなって思わずメールしちゃいました。
 私の、さっきまでどろどろでぐろぐろでもやもやだった気分が、すーっと晴れていったような感じです。
 いい意味で地に足がついたというか。
 登場人物たちは、どうしてこうも余すところ無く魅力的なんでしょう?
 みんな、逃げてない。立ち向かってる。すごい、すごい。
(特にナカタさんとホシノさんの関係性、ほんとーに素晴らしい!!)

▼Reply to 003
 おめでとうございます。あなたが最初の読了メールでした。すごく早く読んでくれたんですね。お仕事に差し支えなければいいんですが。


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Mail no. 373
若いときの文章と若い読者
Sunday, September 22, 1:07 PM

 大学一年の頃から、あなたの作品を読み始めて、今に至っている者です。
 このメールを出したのは、『スプートニクの恋人』以降の文体の変化についてお聞きしたいことがあるからです。
 僕は、昔のモノが単純に良いと思う人間では決してないのですが、『海辺のカフカ』を読んで思った事は、春樹さんが小説家から物語作家へと変わられてしまったんだなという事です。うまく言えないのですが・・・なんだかアーヴィングのようになってきたな、というのが僕の素直な感想です。
 僕の友達は、春樹さんが3人称で語ることが多くなったことは、それだけ春樹さんの世界が広がったんだよと言います。そして僕が極めて1人称的な性格の持ち主だから、過去の作品に愛着があるのだと指摘します。
 たとえば、ゴダールが「はなればなれに」のような作品はもう作らないと言ったように、ひとりの作家が過去の作風に別れを告げる時、そこにどのような理由があるのでしょうか? それを聞きたいと思っています。『ダンス・ダンス・ダンス』のような作品はもう書けない、書きたくない理由のようなものがあるのでしょうか?
 これはあくまで、僕の想像ですが、もう春樹さんは、無意識的に溢れてくる文体に頼らず、意識的で確固たる文体でやろうという考えにシフトしているのですか? そして、それが作家として長く書きつづけるのに必要なシフトなのでしょうか?
 いろいろな知識や情報を意欲的に、物語に変えていることは分かるのですが、過去の作品ほど、親密で無駄なく、それでいて心に響く文章ではなくなってきていると感じられます。すいません生意気で・・・単に好みの問題なのかもしれません。
 もちろん、僕のために作品を作っているんじゃないので、どうしようもないことなのですが、とても好きな作家なのでメールしてみました。これからも、面白い話をたくさん書いてください。応援しています。
 大阪生まれで、神戸育ちの、東京在住の23歳の男性です。

ペンネーム セントラルパークのあひる。

▼Reply to 373
 僕は思うのですが、あなたが僕の若いころに書いた作品のほうを好むのは、今のあなたの年齢が若いということも大きいと思うのです。人は若いときには若い文章を書くし、年齢を重ねれば年齢を重ねた文章を書くようになります。あなたはたぶん読者として、僕が若いときに書いた文章にうまく感応しているのだと思いますし、それはある意味では当然のことかもしれません。
 僕自身のことを言えば、僕は昔自分が書いていた文章に、もうそんなに興味を持てないのです。素敵な思い出はあります。昔理由があって別れたガールフレンドと同じで、思い出すと胸が温かくなります。でも会わないほうがいいだろうな、もう元には戻れないから、ということです。好むと好まざるとにかかわらず、それが人生です。


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Mail no. 437
給料日前ですぅ
Wednesday, September 25, 1:50 AM

 こんなふうにメールを差し上げると、さも、『海辺のカフカ』を読破したみたいですよね。でも、まだ、読んでいないんです。明日、お給料が入るので、買って、それで読むんです。恥ずかしながら。
 ただ、メールボックスのみなさんの盛り上がりがすごくうらやましく、楽しかったので、わたしも早くのっかりたくて。
 ズルのメールを差し上げてしまいました。ごめんなさい。
 
 まだ愛読歴は浅いけれど、村上さんの小説がとってもすきです。
 明日買って、読んで、きっとまた書いてしまいそうです。
 読むのがすごく遅いわたし。読み終わるまで、このホームページは開いているといいけれども。
 それではさようなら。

22歳・顔が8みたいな女子

▼Reply to 437
 こんにちは。ものすごく謙虚な感じのお手紙だったので、思わず返事を書いています。愛読歴が短くても、まだ本を買っていなくても、顔が8みたいでも(どういう顔なんだ?)、大丈夫です。まだこのホームページはしばらく開いていますので、ゆっくり落ち着いて本を読んで、もし何か感想があったら、遠慮なくここに送ってください。お給料がちゃんと出るといいですね。経理の人が「お前、どうせ村上の本を買うんだろう。そんなやつに給料なんか出せないね。村上ファンのそういう態度がむかつくんだよ」とか言ったりしないといいなあと、思います。


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Mail no. 795
村上春樹さんがまあまあすきです
Sunday, October 13, 10:27 AM

 私は日本の某研究学園都市に住む大学3年のおんなのこです。まるまりねこといいます。
 数日前ゼミの先生に、「私、村上春樹さんがまあまあすきです」と何気に話したら、「君、『海辺のカフカ』は読んだかね? 何!? まだ読んでないのか! すきだといいながら読まないとは何事だ!」と、叱られてしまいました(ちなみにゼミとは関係ない)。
 学園祭での公演が終わってから読もうと思ってたのにー!! なんだか村上さんに腹が立って、公演の後の打ち上げで飲みまくりました。自棄酒のバレリーナってどう思いますか?

▼Reply to 795
「村上春樹さんがまあまあ好きだ」という態度はやはりちょっとまずいかもしれないです。「今はまあまあ午前中です」とか「私はまあまあ刑法13条に従います」とか「父はまあまあ隠れキリシタンです」とか、そういうのもちょっとまずいでしょう? そういうあなたのあいまいな姿勢が教授の叱責をかったのかもしれませんね。でも先生に叱られたからといって、僕にむやみに腹を立てたりしないでください。ただでさえ村上はいろんなとばっちりを食っているんです。
 これからは「私は断固、村上春樹が好きです」と言ってくださいね。一蓮托生、運命をともにしましょう。チャオ。


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Mail no. 887
夫の完全なる理解
Tuesday, October 22, 12:03 AM

 シンガポール在住 33歳人妻 ワタシマケマシタワ です。前回出した「夫がカラスと呼ばれる少年は実存してると思っている」というメールに対し、返事を頂きました。とってもチャーミングな返事でうれしかったです。それを喜びいさんで同じくハルキファンの夫に見せたところ、
夫「えぇぇぇーーっ!!!
(かなりネタましそうに)フン、僕のことネタにして。
こんなんどうせ水丸か誰かが書いた返事やん。」
私「ええっ!? でも水丸さんやったらそれはそれでうれしいやん。」
夫「……。(さらにくやしそうに)でもなー、僕はすでにカフカの全てを理解してるんや。バカにするな。」
 ということで、夫の完全なる理解というのは、
1 ナカタさんは「入れ物」なので、カフカ君でもあり、甲村青年でもある。
2 ゆえにナカタさんがカフカ君に会えるわけはない。
3 カフカ君は甲村青年の生まれ変わりでもある。
4 カラスと呼ばれる少年は、カフカ君の内なる声なので、実存していない(今ごろ分かったの?)。
 というものです。他にもごちゃごちゃ自論を述べていましたがよく理解できませんでした。返事を頂けた私のことがかなりうらやましかったみたいで、かなり鼻息荒く話していましたので、ぜひこの理解に対する返事をしてあげてください。

▼Reply to 887
 こんにちは。カラスと呼ばれる少年が実在していないということがご主人に理解されたようで、とても嬉しく思います。よかった。腹話術のギャグはもう必要なくなったんだ。
 ただご主人の説1234を読んでいると、だんだん僕の頭はおかしくなってきて、何がなんだか自分でもよくわからなくなってきました。ちょっと外に出て頭を冷やして、体操をして、それからもう一回考え直してみますね。鼻息の荒さはわかるんだけど、論旨がかなり難解です。それではまた。ご主人によろしく。
 でもけっこう疑り深いご主人なんだ。「こんなんどうせ水丸か誰かが書いた返事やん」っていうのがいいですね。しかしあの方もずいぶん忙しい方なので、僕の代わりに返事を書いているような暇はないと思います。


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