家族 
著者
北朝鮮による拉致被害
出版社
光文社
定価
本体価格 1524円+税
第一刷発行
2003/07
ISBN 4-334-90110-7
 
拉致被害にあったそれぞれの家族の現実を記した「拉致被害者家族連絡会」オフィシャル本。
 

北朝鮮による拉致被害者の家族が赤裸々につづる真実。日本に帰国した5人の家族を中心にいまだ帰らない被害者たちの家族が心境を激白。

本書「あとがき」より
2003年5月7日、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催した国民大集会では6000人の定員を大きく上回る1万人以上もの人たちが集まってくださり、会場に入りきれない人が大勢出るほどの盛況だった。あのとき会場で、「家族だけじゃないぞッ。俺たちがついてるからな!」という言葉を聞いたことが、私には何よりもうれしかった。一方で、ひところの過熱ともいえる報道も収まり、拉致問題がマスコミに登場する回数も徐々に減ってきた。だが、一方的に「死亡」とされた8人の被害者の安否はいまだに不明のまま、帰国した5人の家族も北朝鮮に残されたままなのである。そればかりか、特定失踪者問題調査会の調べでは、拉致の可能性のある人は日本全国で300人を超える。すべての被害者が家族のもとに帰ってこない限り拉致問題が風化することなどありえない。いや、決して風化させてはならない。そのためには、私たち自身の言葉で「拉致」が被害者家族に何をもたらしたのかを語り残しておくべきではないかと考えたのだ。この『家族』は、私たち「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)による初めての記録本である。これまでマスコミ報道にはあまり登場してこなかった家族も含めて、「家族会」に参加している全家族の肉声を伝えたいという私たちの一つの目標はこれで達成できたと思う。

13歳の少女、20年前の失踪事件は、北朝鮮による拉致だった。
「新潟の中学生・横田めぐみさん拉致事件」が新聞、雑誌、テレビでいっせいに報道され、同時に国会でも取り上げられて一挙に注目を浴びたのは、1997(平9)年2月3日のことだった。
それが大きなきっかけとなって、翌月の3月25日に、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)が発足する。
全国各地の拉致被害者の家族たちが、初めて結集したのだ。
その家族会の誕生から5年半後の、’02(平14)年9月17日。
小泉訪朝で、あの「5人生存・8人死亡」の衝撃的な情報がもたらされた。
この、最近数年における急展開。
嵐の中に放り込まれたような日々。
その幕開きとなった日のことを、横田滋(よこたしげる)・早紀江(さきえ)夫妻は忘れない。
’97(平9)年1月21日─。
その日、横田早紀江は、月に−度のキリスト教の祈り集会のために、千葉まで出かけていた。
滋のほうは5年前に日本銀行を定年退職しており、川崎市のマンションで一人、テレビを見ながら過ごしていた。
そこに、1本の電話がかかってきた。
お昼近くだった。
日本銀行のOB会「旧友会」からの電話だ。
それは、次のように告げた。
いま共産党の橋本敦議員のところから銀行に電話がありました。
横田さんの連絡先を教えてほしいというのです。
自宅の電話番号を教えるわけにはいかないので、横田さんのほうからそちらに電話する旨、伝えておきましたので、秘書の兵本という人にすぐ電話してみてください。
そう言われた滋は、いったい何だろうと思いながら、教わった電話番号をダイヤルした。
すると、電話に出た兵本さんが、こう言った。
「お宅のお嬢さんが、北朝鮮で生きているという情報が入ったんです」
滋はびっくりした。
娘のめぐみは、20年前に行方不明になって以来、何ひとつ手がかりも
ないままだ。
兵本達吉(ひょうもとたつきち)というその秘書は、アベック3組(蓮池・奥土、地村・浜本、市川.増元)の蒸発事件など北朝鮮による拉致と思われる事件について以前から調べているという。
お宅のことは初めて知ったので、失踪当時の状況を詳しく教えてほしいというのだ。
参議院の議員会館まで来てくださいと言われ、滋はすぐ家を飛び出した。
議員会館なんて行ったこともない。
地下鉄の永田町駅で降りて、3つ並んだ同じ建物のうちのいちばん手前。
場所を詳しく教わって、そこへ向かった。
めぐみは生きていたんだ。
うれしさが込み上げてきた。
しかし、川崎駅から都心に向かう京浜東北線の車内では、次第に、不安が胸の内にわいてきた。
でも本当の話だろうか。
本当だとしても、北朝鮮では簡単には戻れないかもしれない。
だが、めぐみが77(昭52)年11月15日に忽然と姿を消して以来、初めて耳にする情報らしい情報だった。
この間、皆無といってもいいほど、手がかりは何ひとつなかった。
一瞬でも「もしかして」と思った出来事は、たった2つだけしかない。
ひとつは、失綜2ヵ月後にかかってきた、身代金要求の電話だ。
「めぐみさんは僕が預かっている」。
電話のむこうの男が告げた。
電話を受けた早紀江はびっくりして足がガタガタ震え出した。
しかし、同時に、やっと失踪の理由がわかった、これで娘の居場所もわかると希望も感じた。
だが、結局、それは寂しい高校生によるいたずら電話だった。
急いで横田家に駆けつけた警察が、逆探知して犯人を逮捕したが、新聞記事を基にした作り話だった。
娘がいなくなってから、ただただ悲しみ苦しむしかなかった早紀江の気持ちに、追い討ちをかける残酷な出来事となった。
もうひとつは、新潟.三条市で起きた少女失踪事件だ。
90年11月に起きている。
9年後に犯人が捕まり、柏崎市の犯人の自宅2階に監禁されていたことがわかって大騒ぎになった事件。
それは、めぐみのケースと共通点のある唯一の事件だった。
同じ新潟。
下校途中の失踪。
女の子で、年齢も近い(めぐみは13歳、三条市のケースは10歳)。行方不明になった日付も、11月15日と11月13日で、わずか2日違いだ。
(本文P.9〜11 より引用)


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