冬のソナタ 下
著者
キムウニ/著 ユンウンギョン/著 宮本尚寛/訳
出版社
日本放送出版協会
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2003/06
ISBN 4-14-005424-7
 
あんなにも会いたかった初恋の人 彼が私の前に現れたのです、突然幻のように でも、また愛してもいいのでしょうか・・・・・?
 


もうこの世にはいないはずの初恋の人に、突然出会ってしまったら、どうしますか・・・?韓国で大ブレイクし、ロケ場所が人気のデートスポットになったり、風になびくヘアスタイルや捻って結ぶマフラーの巻き方など、主人公のファッションが若者の間で大流行し社会現象となりました。その人気は、他のアジア地域まで広がっています。韓国KBSの純愛TVドラマの小説・日本語翻訳版がついに登場。

本書「訳者あとがき」より
このドラマの放送がスタートしたころ、私はちょうど韓国にいたのだが、放送日にはどんな友達と会っても、「『冬のソナタ』を見なきゃ」と言ってそそくさと家に帰ってしまう。久しぶりに会う私をほったらかしにしてまで見たいのか、と腹が立ったので、私も一度、友達の家に行って一緒にこのドラマを見てみることにした。『冬のソナタ』は完全に私の予想を裏切ってくれた。ひとことで言うと、とても面白かったのだ。回数を重ねるうちに、『秋の童話』の続編、二番煎じといったイメージを打破して視聴者を虜にした。私が何よりも気に入ったのは、ドラマを見た人なら共感できると思うが、あの美しい冬の情景と記憶喪失という古い題材をうまく描き切ったところだ。このドラマのお陰で、寒くて心まで凍えてしまいそうな冬が大嫌いだった私は、この季節が大好きになってしまった。視聴者の中にも、このドラマを見てから、冬が好きになったという人も多いのではないかと思う。また、記憶喪失というのも、昔からテレビドラマだけでなく映画でもよく使われていて、今や誰も見向きもしない筋書きである。しかも、その内容が恋愛ものとなると、どうしても通り一遍になりがちで、見る側も先が読めてしまってつまらないのである。しかし『冬のソナタ』は、そのワンパターンからくるマンネリを見事に打ち砕いてくれた。その日以来、「『冬のソナタ』を見なくっちゃ」は私の口癖にもなった。

すべてが昔のままだった。
うら寂しい感じを別にすれば、春川は十年前と変わっていなかった。
家に到着したカン・ミヒは、感慨深げな眼差しで我が家の周りを見回し、蔦を撫でながら門の中に入った。
冬の陽が庭に射していた。
だからなのか、家の中は外で感じるより温もりがあった。
家の中に入ったミヒの視線が真っ先に留まったのはピアノだった。
ミヒは蓋を開け、鍵盤を押した。長いあいだ奏でてくれる人がいなくても、相変わらずいい音を出していた。
─僕の父さんは誰ですか?
ゆっくり鍵盤を押していたミヒの手が止まった。
ジュンサンの声が聞こえてきた気がしたのだ、もうジュンサンはいないのに。
そう、陰りのある寂しい少年のジュンサンは、もうこの世にはいない。ミヒはそんなジュンサンの顔を思い出し、ゆっくりピアノの蓋を閉じた。
ミヒはジュンサンとよくお茶を飲んだ窓際の食卓へ向かった。
昔、ジュンサンが座った椅子を指先で撫でてみた。
まだ温もりが残っている気がして、彼女はしばらくその場を離れることができなかった。
ジュンサンはいつもその椅子に座った。
食事をするときも、お茶を飲むときも、そして何かを考えるときも、その椅子はジュンサンの席だったのだ。
─ごめんね、ジュンサン。
過去へと駆け抜けるミヒの眼には、いつの間にか涙が浮かんでいた。
その涙が頬からこぼれ落ちることにも気づかず、ミヒの心はまだ過去の中に仔んでいた。
十七のジュンサンは、ミヒに一度も温かい微笑みも温かい視線も送ったことがなかった。
いや、母親であるミヒをこの世で最も憎んでいたと言った方が正しい。
十年が過ぎた今、不幸だったジュンサンがいたとしたら、相変わらず自分のことを憎んでいたかも知れないと思いながら、ミヒはゆっくり椅子から立ち上がった。
彼女はジュンサンの椅子をもう一度撫でさすりながら、何かを決心したかのように涙を拭った。
─ごめんね、ジュンサン。
許して。
イ・ミニョンの運転する車が駐車場に着いたとき、チョン・ユジンは眠っていた。
荒波にもまれて疲れきった、悲しみを背負ったか弱い魂のように深い眠りに落ちていた。
ミニョンが静かに呼んでみたが、何の返事も返ってこなかった。
「……ユジンさんも僕のことが好きだって……そう信じたいんだけど、いけませんか?」
寝顔を見つめながら、ミニョンが眩くように言った。
ユジンが眼を覚ます気配はない。
しばらく見つめていたミニョンが、ゆっくり手を伸ばして髪を撫でようとしたとき、ユジンが眼を覚ました。その瞳には、長い旅を終えたときのような疲れが浮かんでいた。
しかし、表情はいつになく安らかに見えた。
当惑したミニョンの手が宙に泳いだ。
そんなミニョンを見つめるユジンも気まずい表情だった。
ミニョンは車を降り、コーヒーを買いに行った。
自動販売機でコーヒーを買い、車に戻ったミニョンは、車の中にいるはずのユジンが見当たらなくて当惑の表情を浮かべた。
(本文P.6〜7 より引用)


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