冬のソナタ 上
著者
キムウニ/著 ユンウンギョン/著 宮本尚寛/訳
出版社
日本放送出版協会
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2003/06
ISBN 4-14-005423-9
 
切ない初恋の記憶、胸に刻まれた消えない思い出。もうこの世にいないはずの初恋の人に、突然出会ってしまったら…。
 

もうこの世にはいないはずの初恋の人に、突然出会ってしまったら、どうしますか・・・?韓国で大ブレイクし、ロケ場所が人気のデートスポットになったり、風になびくヘアスタイルや捻って結ぶマフラーの巻き方など、主人公のファッションが若者の間で大流行し社会現象となりました。その人気は、他のアジア地域まで広がっています。韓国KBSの純愛TVドラマの小説・日本語翻訳版がついに登場。

本書「まえがきに代えて」より
は・つ・こ・い−−−そっと思い浮かべるだけで、人々の胸に静かな波紋を起こす水色の懐かしい言葉。すべての人々の初恋は純粋で切実なものであるけれど、時間が経つにつれてその記憶は薄れていき、別の愛によってその強い気持ちはしぼんでしまう。ところが、生まれて初めての胸が高鳴るような愛を感じさせてくれた彼が死んでしまったとしたらどうだろう。そして、十年後に死んだ彼と同じ顔の男が、結婚をひかえた彼女の前に現れたとしたら?昔、愛していた男と似ているという理由だけで、その男を愛することができるだろうか?あの冬、私たちはユジンとジュンサンの、思い出の中の冬を旅するために、現実の冬を感じる暇がなかった。いつ初雪が降ったのか、クリスマスはどう過ごしたのか、まったく覚えていない。部屋はとても寒く、ジュンサンとユジンを再会させたり、別れさせたりする過程はとても難しかったけれど、二十歳のころ、初めて好きな人ができたときのときめきを思い出しながら、まるで自分たちが初恋をしているかのように『冬のソナタ』を書いた

本書「まえがきに代えて」より     キム・ウニ/ユン・ウンギョン
美しい冬の映像を画面いっぱいに映し出した初恋の物語を、ユジン、ジュンサン、サンヒョク、そしてジュンサンに似たミニョンの切ない初恋を、運命的な決して変わることのない愛を、囁くように節制した言葉で再び蘇らすことは、また違った難しい作業だった。『冬のソナタ』は私たち二人が経験した切ない「初恋」である。初恋は誰にとっても一度しかないから胸が痛むものだが、だからこそ一生忘れられない愛になるのだと思う。まだ四月なのに夏のように蒸し暑く、冬の痕跡はどこにもない。しかし、遠からず冬はまた訪れるはずであり、やがて二十歳になる少年少女たちは、どこかで人生の最初であり最後である初恋に出逢っているはずだ。いっとき心から誰かを愛した人々と、最近恋愛を始めた人々、そして初恋の思い出を持つすべての人々にとって、この本『冬のソナタ』が温かな思い出になればと思う。

こんな懐かしい気持ちは初めてだった。
マロニエ公園のベンチに腰掛け、掌にある柿色のジグソーパズルの欠片を見つめていたチョン・ユジンの眼がわけのわからない懐かしさに吸い込まれていった。
ホワイトスキー場のリノベーションエ事を発注したセウングループの建設設計会社「マルシアン」の社屋を出て、バス停に向かっていたユジンはふと立ち止まり、ポケットの中から何かを取り出した。
マルシアンを出るときに階段で拾ったジグソーパズルの欠片だった。
婚約パーティの準備をするためには急がなければならなかったが、なぜか彼女はベンチから立ち上がることができなかった。
遠くから聞こえてくる波の音のような、おぼろげな懐かしさが彼女の胸の奥底から静かに揺れ始めた。
ユジンは朝からマルシアンに渡すリノベーション図面の仕上げ作業でばたばたしていた。
新しく就任したマルシアンの代表理事が何度も図面にケチをつけたからである。
そのひとりの人間が、ユジンが所属している設計事務所「ポラリス」のスタッフ全員を疲労困懸させた。
同僚のイ・ジョンアは腹を立てながら、顔も知らないマルシアンの代表理事のことを縁故だのなんだのと気にくわない顔で罵った。
わがまますぎて一緒に仕事はできない、と腹を立てるジョンアは、新しく就任した代表理事の華麗な経歴なんかには興味がなかった。
リノベーションというものをまともに知りもしない人が口出しするのも問題だが、その代表理、導という人は、リノベーションというものを家や建物を改装する程度のものだとしか思っていないのでは、とまで思えた。
建物を新しく建てることより何倍もの努力とノウハウが必要とされることを知っている人はそういないのである。
何度も図面の修正を要求してきたマルシアンの代表理事は、ジョンアにとってはとても不愉快な人だったのだ。
それは、ユジンにとっても同じだった。彼がどんな人なのかは重要ではないが、五回も図面を修正させるとは……。
仕事に関して見解の違いは誰にでもあることだが、疲れてしまうことは事実だ。
幸いなのか不幸なのかわからないが、ユジンはその男と顔を合わせることなく、図面だけ渡してマルシアンを出た。
とにかく、厄介な仕事をやっと終えたと思うと心が清々しくなった。
少なくともポケットの中から柿色のジグソーパズルを取り出すまでは。
代表理事の荷物を部屋へ運ぶ途中で誰かが落としたに違いない。
考えてみるとおかしなことだった。
図面を五回も修正させるような人の趣味がジグソーパズルだとは。
ユジンはぷっと笑いをこぼしながら、真剣にパズルをはめる男の姿を想像してみたが、その姿を鮮明に思い描くことはできなかった。
顔も知らないから当然ではある。
その男はとても単純な人か、あるいはその正反対に少し複雑な感情を胸に抱えている人なのかも知れない、とユジンは思った。
ジグソーパズルの欠片ひとつひとつに何らかの思い出を秘めている、もしかするとそんな男なのかも知れない。
その男はパズルを合わせながら、心にどんな思い出を浮かべるのだろう。
ユジンはパズルの欠片を見つめながら北極星を思い浮かべた。
(本文P.8〜9 より引用)


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