ブレイブ・ストーリー 下
著者
宮部 みゆき
出版社
角川書店
定価
本体価格 1800円+税
第一刷発行
2003/03
ISBN 4-04-873444-X

感動の最新長編。 尽きせぬ感動の涙が押し寄せる、和製ファンタジーの大傑作!立ちはだかる数々の困難を前に、ワタルの願いは叶えられるのか?

さまざまな怪物、呪い、厳しい自然、旅人に課せられた苛酷な運命が待ち受ける“幻界“。
勇者の剣の鍔に収めるべき五つの宝玉を獲得しながら、ミーナ、キ・キーマ、キーマらとともに「運命の塔」をめざすワタル。
先を行くライバル・ミツルの行方は?ワタルの肩にかかる“幻界”の未来は?そして、現実世界で亘の願いは叶えられるのか。
息を春み、胸躍る数々の場面、恐ろしくも愛らしい登場人物たち─、物語の醍醐味がすべて詰まった圧巻の2300枚!

 

嘆きの沼

風に巻かれ、目もくらむほど高い夜のてっぺんまで飛翔し、空をよぎる星が見えた。
眼下の雲の切れ目で町の灯りが見えた。
竜巻の真ん中に取り込まれると、そこは不思議なほど静かで、間断ない上昇気流が、まるで赤子を抱きあげる母親の腕のように柔らかく、ワタルが地上へと墜落しないように、優しく持ちあげてくれていた。
やがて少しずつ高度が下がり、雲の下に出た。
どれくらいの距離を運ばれてきたのか見当もつかない。
見おろす足元はただ一面に暗く、家々の屋根も牧場も山の端も見分けがつかない。
それでも、高度はさらに下がってゆく。
竜巻が下降しているのではなく、竜巻の内部で、ワタルの位置だけが少しずつ下がっているようだった。
やがて、地面に足がついた。
竜巻の風の抱擁が離れると、思い出したように右腿の傷がずきりと痛んで、ワタルは地面に倒れ込んだ。
そこはベトベトと湿った土いや、泥の海のようなところだった。
はっとして振り仰ぐと、銀色の竜巻のしっぽが、雲のあいだに消えてゆくところだった。
空はまだ暗く、星が輝いている。
ミツルは、どこに飛ばされるか責任を持てないなんて言ってたけど、あの竜巻は親切だった。

(本文P.9より引用)

 

 

 

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