ビョークが行く
著者
エヴェリン・マクドネル/著 栩木玲子/訳
出版社
新潮社
定価
本体価格 1200円+税
第一刷発行
2002/01
ISBN 4-10-542601-X
子供の頃、“チャイナ・ガール”とあだ名されていた彼女に私たち ジャパニーズは近しいのもを感じる。

「ビョークって変わっているよね、どうしてかな?」――そんな疑問に答えます。きらびやかな異端者の究極、アイスランドの歌姫の内面世界がよく分かり、彼女の音楽を激しく理解できてしまう評伝。

 

ビョーク・グズムンスドッティルを私が好きになった一九九〇年代、彼女はすでにキャリアニ十年目に入ろうとしていた。
この本を読む方々は、おおむね二つのグループに分かれるだろう。
ちょうどその真ん中あたりに私は位置することになる。
映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(以後『ダンサー』)でビョークはいくつもの賞の候補となり、実際いくつもの賞を受賞した。
で、それを知って「ビョークっていったいナニモノ?なんで白鳥の衣装なんか着てるワケ?」と自問し、しかる後にインターネットで適切なサイトヘ行って調べた人たちが一方にいる。
そしてもう一方にはビョーク病の人たち。
ホワイト・レーベルのリミックスから彼女がゲスト・ボーカルとして参加した曲まで、あらゆる物品を逃さず集め、ビョークに関することならすべてを知り尽くしている人たち。
そう、ビョーク歴の比較的浅い未熟者が書いたこの本についてさえ、彼らは知っているに違いない。
これは伝記ではない。
このためにわざわざインタヴューを行なったわけでも、自慢に値する新事実が明かされるのでもない。
平気で時間が飛んだり、作品が無視されたりする(めったやたらと元気いっぱいのシュガーキューブス時代の曲とか)。
一九九六年までのビョークの人生のあらましを、みごとに詳細かつ綿密にたどった伝記なら、イギリスのジャーナリスト、マーティン・アストンの『ビョークグラフィー』がすでに出版されている。
情報がいくぶん古いうえ、残念なことに絶版となってしまったが、詳しい伝記をお探しならば、あの麗しくもカビ臭い、古本屋という名の聖域に足を運び、この本を探すことをお薦めしよう。
でもこれだからアマゾン・コムやバーンズ・エンド・ノーブル・コムはいつまでたっても古本屋に追いつかないのよね。
さあ、コンピュータなんかさっさと消して、本のカバーの挨を払い、みんなで本を読みましょう!
とはいうものの、私のこの本はもともと“本”であって“本”にあらず。
そう、新たな流行、新たなメディア、新たなテクノロジーに、マーケティング用のキュートな名称をつけたもの。
なににでも使い回しのきく電子時代の、造語フレンドリーな一音節の接頭辞を、効果的かつ効率的に利用した、これは一レイディーズ・アンド・ジェントルマンーこれはなんと、eブックだったのであります!しかも中味はテクノと同じくらいレトロな(ちなみにこのバランスはとてもビョーク的。詳しくはエピソード3を参照)、私見をまじえた分析記事の逆襲、すなわちeッセイなのでありまして。
従来のエッセイなるもの、今では(ゴクリ)学者さんたちによってすっかりゲットー化され、彼らの独占領域となりはてている。
この本はそんなすたれたジャンルを蘇らせ、生気を回復させようという試みでもある。
厳しくも気まぐれな時代にあって、アイスランドという島国出身の子どものような女が、なぜもっとも重要かつ革新的かつ魅力的な、目の離せないスターであるのか、その理由を私なりに開陳しようというわけだ。

(本文P.12、13より引用)

 
 


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