天才ミステリー作家の独壇場。30ページ読んでみて途中でやめられたら、あなたはえらい！
　お待たせしました！　シドニィ・シェルダン最新作、ついに登場です。生まれも性格も違う三人の女性。同じ街に住み、同じ職場で働く三人を結ぶ謎の糸。その糸が切れたとき事件は動きだす……。きらびやかな都会の夜に起こる猟奇事件。最後の最後までつづくサスペンス。天才ミステリー作家の独壇場。（原題：TELL ME YOUR DREAMS

Ｓ．シェルダンの名を知らない人はいないでしょう！　世界一有名な大ベストセラー作家の傑作の数々は、海外をはじめ日本でも何度も映画化・ＴＶドラマ化されています！

第一章

彼女は何者かにつけられていた。
”ストーカー”のことはいっときの話題になったし、なにかの記事で読んだこともあった。
〈そんなの、わたしとは無縁だわ。すさんだ世界に生きる人たちの出来事よ〉
彼女はそう思って深刻に受けとめたことはなかった。
しかし、ここにきて、彼女自身の周辺が怪しくなっていた。
それがだれなのか、心あたりもなければ、見当もつかなかった。
パニックにならないよう彼女は必死に自分を勇気づけた。
だが、最近は悪夢にうなされて睡眠もままならなくなっていた。
朝は目覚めと同時にかならず暗い気分に引きこまれる。
〈わたしの被害妄想かも〉
彼女、つまりアシュレー・パターソンはそう思うことにした。
〈仕事のしすぎなんだわ。少し休暇でもとろうかしら〉
アシュレーはふりむいて鏡に映る自分をあらためて見た。
いかにも二十代後半らしい成熟した女性の姿がそこにあった。
きちんとした着こなし。
ほっそりした体形。
上品な顔かたち。
知的で不安げな茶色い目。
落ちついた優雅さと、内に秘めた魅力。
肩まで届く黒髪。
〈わたしって冴えない〉
アシュレーは鏡のなかの自分を見つめながら卑下した。
〈やせすぎだわ。これからもっと食べなきゃ〉
彼女はキッチンヘ行き、朝食をつくりはじめた。
最近起きている怖いことは忘れるようにして、オムレツが失敗しないよう、料理に意識を集中した。
コーヒーメーカーのスイッチを入れ、トースターにパンをひと切れほうりこんだ。
十分後、すべての用意ができた。
アシュレーは料理の皿をテーブルの上に置き、いすに座り、フォークをとりあげ、しばらくオムレツを見つめた。
それから急に首をふって、フォークを皿の上に置いた。
やはりだめだった。今朝も恐怖で食欲がなえてしまっていた。
〈もう、こんなのいや！〉
腹が立っても、怒りのもって行き場がなかった。
〈だれだか知らないけど、わたしをこんな目にあわす人間が許せない！〉
アシュレーは腕の時計を見た。

（本文Ｐ.7〜8）