梅原猛の授業 道徳
著者
梅原猛/著
出版社
朝日新聞社
定価
本体価格 1300円+税
第一刷発行
2003/01
ISBN 4-02-257811-4
日本国憲法を支える道徳とは? 生きとし生けるものへ 自利利他の勧め

日本人の道徳はこのままでいいのか?21世紀に生きる道徳とは何なのか?教育勅語への批判から、すべての生きとし生けるものの大切さを熱く語りかける。やさしい言葉で日本人の生き方を説く、『仏教』に続く授業シリーズ第2弾!

昨年に引きつ、づいて、十二回の講義をさせていただくことになりました。
昨年は仏教の話をしましたけれども、今年は仏教を含む多くの宗教と深い関係を持っている道徳の話をしたいと思っています。
昨年の最初の授業でもお話しましたが、ドストエフスキーというロシアの偉大な小説家が「宗教なくして道徳はない」と言いました。
宗教ぬきで道徳を考えるということは、なかなかむずかしいんです。
そこで今年は、宗教を背景にして、道徳というものをどう考えたらいいか、しかも今の日本の道徳をどう考えたらいいかを、皆さんにお話したいと思います。
皆さんご存じのように、第二次世界大戦後、日本国憲法という主権在民の立派な憲法ができました。
戦前には大日本帝国憲法というものがあった。
明治二二年に制定された、ひとことで言えば、この国の主は天皇陛下であるという憲法です。
憲法というのは、国の基本的な法律の定めですけれども、大日本帝国憲法に応じて道徳の定めができた。
それが教育勅語です。だから明治時代には法律と道徳が、ほぼいっしょにできたわけです。
戦後になって、平和憲法と呼ばれる日本国憲法ができた。日本は民主主義国家になったんですから、これはいいことですね。
天皇も、民主主義の国家にふさわしい、大変いい天皇をお迎えして、結構な国なんです。
それに対して、平和憲法と対になるべき道徳ができていません。
皆さん、小学校のとき道徳を習いましたか。
多分、習っていないでしょう。道徳の時間はありますが、ほとんど道徳と呼べるものを教えられていない。
形だけできていますが、中身はない。小学校ばかりでなく、中学になっても道徳は教えられていません。
一方、家庭に道徳教育があるかというと、家庭でもあまりありません。
皆さんのお母さんは、道徳に関してそんなに厳しくないんじゃないでしょうか。お父さんもお母さんも、皆さんに「勉強しろ」とガミガミ言うでしょう。
しかし、人間はどういうふうに生きたらいいのか、なにをしてはいけないかということは、ほとんど教えられていないんじゃないでしょうか。
だから、道徳は学校でも教えられていない。
家庭でも教えられていない。

(本文P.10、11より引用)

 

 
 


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