マクロ・日本経済からミクロ・あなた自身へ
著者
村上 龍
出版社
日本放送出版協会
定価
本体価格 1400円+税
第一刷発行
2002/12
ISBN 4-14-080742-3
それでも 日本は変わらない。変わるのはあなただ!

日本経済のことを考えるのは間違っているというわけではないし、日本経済のことを考えることで報酬を得ている人もいる。だが、それ以外の人は日本経済のことを考えても何の利益もない。ただ、ミクロを語る文脈は整備されていない。個人や個別企業や個別自治体について語る文脈を獲得すること、それがわたしとJMMの当面の作業だと思っている。

はじめに

村上龍

どうすれば日本経済は元気になるか、というようなマクロの議論がいまだに主流なのはなぜだろうか。
政治家だけではなく、経営者も評論家、識者と呼ばれる人たちも、テレビや新聞や雑誌などのマスメディアも、そういった議論を止めることがない。
どうすれば、という問いの答えは最初からはっきりしている。
非効率な政府部門と資源配分を無くし、民間にできることは民間にまかせればいいのだ。
つまり、たとえば財政投融資のように、日本が貧しい時代には必要だったが今は必要ないものを単に廃止すればいいのだが、それは遅々として進んでいない。
日本経済という大きな括りの論議は、個人や個別企業や個別自治体の問題を隠蔽するという側面がある。
焼け野原の終戦のような極端な例を持ち出すまでもなく、日本経済は過去に何度も危機があった。
そのたびに淘汰があり、時代状況に合わない業態や企業は市場から退出してきた。その典型は石炭産業だ。
また戦後復興期から高度成長期にかけて静岡では四百を超えるオートバイメーカーが誕生したが、淘汰に耐えたのはホンダやヤマハなどたった四つのメーカーに過ぎない。
日本経済という大きな括りのマクロの議論には、「日本経済」が「個人・
個別企業・個別自治体」をどうにかしてくれるという前提があるように思える。
そしてその前提には集団に属することで安定を得ようという旧来の甘えが潜んでいる。
誤解されると困るのだが、日本経済のことを考えるのは間違っているというわけではないし、日本経済のことを考えることで報酬を得ている人もいる。
だが、それ以外の人は日本経済のことを考えても何の利益もない。
ただ、ミクロを語る文脈は整備されていない。
個人や個別企業や個別自治体について語る文脈を獲得すること、それがわたしとJMMの当面の作業だと思っている。

(本文 はじめに より引用)

 

 
 


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