青空のむこう
著者
アレックス・シアラー
出版社
求龍堂
定価
本体価格 1200円+税
第一刷発行
2002/05/25
ISBN4−7630−0211−2
やり残したことがあるから・・・・・


「とにかく、ぼくは死んでここにいる」突然の事故で死んでしまった少年ハリー。
あるときハリーは青空のむこうから地上に降りてくる。
心残りがあると〈彼方の青い世界〉と呼ばれる場所に行けないのだ。
〈彼方の青い世界〉とは? ハリーは、思いを遂げられるのか?

 死んでいるのに、あっけらかんとしてユーモアたっぷりの主人公ハリー。
ハリーは、物語を通して、「生きている今が大切なんだよ」というメッセージを私たちに伝えてくれる。
 生きていることのすばらしさを教えてくれる、読後感の爽やかな感動の一冊。
 イギリスの新星アレックス・シアラーの作品を、日本で初めて紹介

1 受付─THE DESK


人はみんな、死んだらあとは楽になるだろうって思うらしい。
だけど、絶対そんなことない。
まず大人たちが次々にやってきて、こう聞く。
「おいおい、小さいのにひとりなんだな。お母さんを探してるのかい?」
だから答える。
「ううん、ママはまだ生きてる。ぼくが先に死んじゃったんだ」
すると相手はため息をついて言う。
「そりゃあよくない」と。
まるで、ぼくの努力しだいでこの状況をすっかり変えることができるはずだし、息をしていないのもぼくのせいだというみたいに。
ほんと大人たちは、ぼくが列に割りこんできたって思うようだ。
ここ、つまりアーサーの好きな呼び方で言うと〈あの世〉では(アーサーのことはあとで話すけど)、物ごとはすべて年齢と経験しだいって考えらしい。
それって家にいたときと同じだ。
ぼくは〈家〉って言ったけど、アーサーは〈この世〉って言う。
アーサーによれば、人は生きてるときは〈この世〉に必ずいるものだそうだ。
そうじゃないと、死んだとき〈あの世〉に来られなくなっちゃうから。
アーサーの言ってること、ぼくにはよくわからないんだけど。
人は長生きして、ちゃんと年をとって、体が弱って自然に消えるようにして死を迎えるのがいいらしい。
アーサーは、靴をはいたままベッドで死ぬのが一番だって。
だけど、靴をはいたままベッドに入る人なんて聞いたことがない。
ものすごく具合が悪くて脱げなかったっていうならわかるけど。
それだって、だれかが脱がせてくれるよ、きっと。
もしぼくが靴をはいたままベッドに入ったりしたら、きっとママに五十回はぶたれる、いや、六十回かな。
もしかしたら百回かも。
だけどこれは、「そうだといいな」って話で、実際には、そんなにうまくはいかない。
死ぬ年が決まってるわけじゃないんだから。
ぼくみたいに早い場合もあるし、おじいちゃんみたいに年をとってからってこともある。
その間の年齢の人もたくさんいる。
だけど〈受付〉の順番がきて(受付のこともあとで話すね)、見ただけで寿命より早く死んだってわかる人は、地獄のように大変な思いをする(本物の地獄ってことじゃない。
地獄があるとしても、ぼくはまだ見てないから。
ぼくの知るかぎり、死ぬと事務的な手続きをしなくちゃいけないようだ)。
死ぬと、次に気づいたときには長い列に並んでる。
順番を待って登録してもらわなきゃならないんだ。
大きな机のむこうに男の人がいて、ぶ厚いメガネごしにこっちを見おろして言う。
「どうした?おまえみたいな子どもがここでなにをしている?まだ人生が始まったばかりじゃないか。どういうつもりだ?ここに用はないはずだろう。外で自転車でも乗って遊んできたらどうだ」
だからこう答える。
「自転車に乗ってたんだけど」
それでもこんなことになっちゃったんだ。
男の人はまた、ぶ厚いメガネごしにこっちをにらみつける。
「前をちゃんと見て、もっと気をつけることだな」
前も見てたし、ちゃんと気をつけてた、だからぼくのせいじゃないって言っても、同情してはもらえない。
本文P.12〜14より引用

 

 

 

 

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