■目次
１　まず、この「方法論」を知っておく！―「仕事をする力」「学ぶ力」をどう高めるか；２　「頭」のいい思考術―「考える力」を三〇代からグンと伸ばす人；３　「頭」のいい記憶術―「覚える力」が伸びる人、伸び悩む人；４　「頭」のいい読書術―「知識・情報力」にムダのない人、ムダの多い人；５　「頭」のいい試験勉強術―「役立つ資格」を最短時間でとれる人；６　「頭」のいい時間術―「一日の使い方」がうまい人、へたな人；７　「頭」をよくする三〇代からの生き方―これから伸びるのは「どんな人」か

■要旨
今、「１つの問題」にいくつの「解決策」を見つけられますか。３０代の総合能力―「仕事をする力」「学ぶ力」をどう高めるか。本書は、あなたの“ウィークポイント”を確実に矯正する。

はじめに

今日から
「やること」「考えること」「変えること」

私の場合、三〇代の終わりから、急に仕事が増えはじめた。
月刊誌や単行本などの原稿依頼が増え、講演を頼まれることも多くなった。
知的なアウトプットを発表する場に恵まれることは、私としてはうれしいかぎりである。
これも、三〇代の一〇年間、自分なりに勉強を重ねてきたことの一つの果実だと思っている。
正直いって、二〇代までの私は、とても「知的な青年」と呼べる存在ではなかった。
一応、受験戦争の勝ち組ではあったが、ろくに専門書を読むこともないまま、学生時代は遊びとバイトに明け暮れていた。
そして、医師としての基礎をきちんと身につけないまま、国家試験に受かり、名目だけは精神科医ということになった。
その後、「受験技術の研究家」として一部では有名になったが、医師としては駆け出し中の駆け出し。
それを生涯の仕事にする覚悟もないまま、いやいや精神分析理論を勉強していた。
そんな私が「勉強はおもしろい」と思えるようになったのは、精神分析の勉強を始めてから五年目、一念発起してアメリカに留学してからのことである。
そのとき、私は三〇代のとば口にさしかかっていた。
論語に「吾れ十有五にして学に志す」とあるように、孔子は一五歳にして学を志したそうだが、非才の私は三〇歳にしてようやく勉学に志を立てたのである。
今から思えば、私はそのときからこの本の企画を温めてきたといえる。
必ずしも意識的ではなかったにせよ、当時の私は「三〇代こそ勉強に最適の時期」という仮説を胸に秘め
ていた。
だからこそ、留学に踏み切れたのだと思う。
妻子をかかえた身で、日本国内の仕事を捨て、渡米する決心がついたのだと思う。
そして、帰国後も含めた三〇代の一〇年間、自分なりに知的な活動を続けてきた今、三〇歳のときの仮説は、すでに単なる仮説ではなく、確信に基づいた説として人に語ることができる。
「三〇代こそ、もっとも勉強に向いた時期である」と。
逆にいえば、三〇代に勉強する習慣、あるいは考える技術、知的アウトプットのテクニックを身につけなかった人は、不幸である。
私はいやというほど、そういう例を目にしてきた。
たとえば、私の学生時代の友人には、当時、学部の劣等生だった私から見れば、輝くばかりの秀才が数多くいたものだ。
しかし、彼らがその後、知的アウトプットを次々と生み出しているかといえば、必ずしもそうはいえない。彼らは、二〇代までに燃え尽き、三〇代の使い方に失敗したのだと思う。
むろん、勉強すること自体は、知的活動のごく一部であり、目的とするものでもない。
自分の頭をよくし、上手に考え、問題解決や業務上の改善を含めて知的なアウトプットを生み出すため、その手段の一つとして勉強が必要なのだ。
そもそも、人生八○年時代、三〇代で「自分は頭が悪い」「勉強するにはもう遅い」とあきらめてしまうのは早すぎる。
三〇代の勉強で身につけた知識や思考力を生かし、うまくアウトプットに結びつければ、四〇代以降の人生は必ずや開けてくるはずである。
この本では、三〇代のための勉強術と、その勉強の成果として、知的アウトプットをどうやって効率的に生み出すか、その理論と技術を紹介した。背景となるのは、最新の精神分析論、認知心理学、脳科学と、私自身の体験である。
本来、学ぶことは楽しく、心身にいい影響を与え、実利的にいっても、それがもたらす果実は大きい。
しかし、生きる態度を変え、知的な生活をスタートさせないかぎりは、その果実の甘さを味わうことは永遠にできないのである。

和田秀樹

本文　はじめにから引用