日本人のためのイスラム原論
著者
小室直樹
出版社
集英社インターナショナル
定価
本体価格 1600円+税
第一刷発行
2002/03/31
ISBN4−7976−7056−8
渾身の書き下ろし! イスラムがわかれば、世界が分かる!

なぜイスラムは欧米を憎み欧米はイスラムを叩くのか? 日本人ムスリムはなぜ少ないのか? イスラムがわかれば世界がわかる。稀代の大学者・小室直樹が緊急執筆した日本人必読の「イスラム原論」。

 

 

■目次
第1章 イスラムが分かれば、宗教が分かる(アッラーは「規範」を与えたもうた;「日本教」に規範なし);第2章 イスラムの「論理」、キリスト教の「病理」(「一神教」の系譜―キリストの「愛」とアッラーの「慈悲」を比較する;予定説と宿命論―イスラムにおける「救済」とは何か;「殉教」の世界史―イスラムのジハードと中国の刺客、その相似性);第3章 欧米とイスラム―なぜ、かくも対立するのか(「十字軍コンプレックス」を解剖する―現代世界にクサビ刺す“一〇〇〇年来の恩讐”;苦悩する現代イスラム―なぜイスラムは近代化できないのか)

 

はじめに

かの同時多発テロ事件以来、イスラム関係の本が汗牛充棟(書物がひじょうに多いこと)ほども出版された。
体験記や宿老の著述やら見るべきものも多い。
しかしイスラムの本質を明白にできたと言えるだろうか。
体験記、レポートが与える情報は、事実であったとしても真理とは言えない。
体験が教えることは、科学的に検証しないと「正しい」とまでは言えないのである(本書386〜392ぺージ)。
イスラム世界の本質は、比較宗教社会学的にイスラム教を研究して、はじめて明らかにされるであろう。
イスラム世界とは、イスラム教を奉じる社会だからである。
イスラム教では、宗教とは法である。
では、法とは何か。
法とは神との契約である。
神との契約は宗教の戒律であり、社会の規範であり、国の法律である。
この四つがまったく一致するのが宗教の理想であり、イスラム教はまさにそのとおりである。
イスラムの信者にとって、法を守ることは、そのまま神を信じることにつながる。
法を守ることによって、ムスリム(イスラム教徒)は容易に安心立命の境地に達する。
しかるに、キリスト教には法もなければ、規範もまた存在しない。このような宗教において、信者が神を信じるには、絶大な努力を要するのである。
イスラム教とキリスト教とは、同じ一神教であっても天地雲壌の違いがある。
また、イスラム教はキリスト教と違って、原罪論およびイエスの購罪による人間の救済、三位一体説、予定説、神の母マリアなどの奇態きわまりない教説を持たない。
イスラムでは教えのエッセンスが「法を守れ」に縮約され、理解を絶するような教義は、一つもない。
誰にでも王極分かりやすい。
イスラム教が沖天の勢いで広まっていったのは、まさに当然すぎるほど当然のことであった。
マホメットの死後一〇〇年ほどで、イスラム帝国は全盛期のローマ帝国より広大な領域を支配した。
この大帝国においてイスラムは被占領地の住民を和合、同化し、その都であったバグダードは世界経済の中心となって繁栄をきわめた。
生産力は進歩し、富は蓄えられ、貨幣経済も伸展をきわめた。
目木人はアジアの歴史(東洋史)、ヨーロッパの歴史(西洋史)は知っていても、中東史(言うならば「中洋史」)、すなわちイスラム史を知らない。イスラムこそ一〇〇〇年以上にわたって世界史の中枢であった。その絢欄豪華さは中国すら及ばず、同時代のヨーロッパに至っては、ゲルマン人はいまだ汚い野蛮人であった。
大航海時代、ルネッサンスを契機として、ヨーロッパは近代へ向けて発進することになるが、いずれもイスラムの文化的指導なければありえなかった。
世界がイスラムに負うのは、アラビア数字だけではない。代数学、天文学、化学はもとより、ギリシャ、ローマの思想研究もまたアラブを母胎とする。
このことを欧米人がすっかり忘れてしまっている忘恩こそが、イスラムと欧米との紛争の原因なのである。

本書 はじめにより引用

 

 

 

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