カシコギ
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著者
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趙昌仁(チョチャンイン) | |
出版社
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サンマーク出版 | |
定価
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本体価格 1600円+税 | |
第一刷発行
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2002/03/05 | |
ISBN4−7631−9408−9 | ||
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韓国で160万部突破の大ベストセラー、ついに邦訳! 【本書のあらすじ】 *カシコギという魚のオスは、メスが産み捨てた稚魚を必死に育て、子が成長すると自らは死んでいくという。 |
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第一章 空 一 パパはばかだ。 ママはパパが煙草を吸うたびにかんしゃくを起こしていた。パパが煙草をやめたのはそのため だ。でも僕が入院してからは、また吸いはじめた。吸っても吸わなくてもパパの勝手だけど、僕 はやっぱりいやだ。ママみたいにかんしゃくを起こすほどじゃないけどね。 好きな人のためには、いやなことでも我慢しなければならないんだ。パパは前にそう言ったこ とがある。僕が世界で一番好きな人はパパだから、パパが煙草が好きなら我慢しなくちゃ。僕に 煙草の煙をかけることはないんだから。 僕たちがマンションの二十階に住んでいたころ、パパはいつもベランダで煙草を吸っていた。 ママが家の中では吸わないでと言うからだ。 僕はベランダで煙草を吸うパパを見たくなかった。ベランダの下から大きな手が伸びてきて、 パパを連れていったらどうしよう。手すりが折れて落ちたらどうしようと、いつも心配だったから。 でも断っておくけど、僕を弱虫だなんて思わないでほしい。 学校の先生は僕のことを男らしいといって、親指を突き出したりしていたんだ。 この病室で、一番我慢強いのも僕だ。ほかのみんなは注射や薬を怖がるけどね。 でも内緒なんだけど、高いところは苦手なんだ。おしっこが漏れちゃうような感じになるんだ。 ブランコやすべり台でも同じかな。 遊園地でジェットコースターに乗ったことがあったけど、気絶するかと思っちゃった。 そのとき僕は決心した。 大人になっても飛行機には絶対に乗らないぞって。 ベランダで煙草をふかしているパパの姿が目に浮かんだ。 でも今の僕がいやなのは、煙草を吸っているパパじゃなく、傘もささずに雨に打たれているパパだ。 僕はもうちびなんかじゃない。 パパは、僕をちび扱いするし、僕の前では、世界で一番勇敢なふりをしている。 でもひとりになると、今みたいに元気のないことがある。それを見ると、僕はしゃくに障る。 僕は白血病という病気にかかっている。 どんな病気かってことを、パパは話してくれたことがない。 これからも話してくれないと思う。 僕のいる病室は、白血病とその親戚の再生不良性貧血の患者専用だ。 この病気がひどい病気だってことは、パパが話してくれなくても、自然にわかってしまう。 僕は背が高くない。 白血病の治療をしている二年間に友だちの背はどんどん伸びたのに、僕の背はそのままだ。 白血病が僕の背を柱に釘づけにしたらしい。 自血病は、アニメに出てくる意地悪な猫、トムみたいだ。 僕は二十日鼠のジェリー。 どんなに逃げてもトムはジェリーを追ってくる。 決して逃がしてくれない。 入院と退院、入院と退院─。 二年間、この二つの繰り返しだった。 数えたことはないけど、もう十回以上になると思う。 短いときで一週間、長いときは二か月間も入院していた。 今度の人院はもう一か月になる。 (本文P.6〜9から引用) |
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