d代議士になったパリの娼婦
著者
ニコル・カスティオーニ (奥光宏 訳)
出版社
思草社
定価
本体価格 1500円+税
第一刷発行
2002/02/22
ISBN4−7942−1119−8
拒食症、売春、麻薬中毒─苦しみぬいた日々をバネに、果敢に人生を切り開いた女性の胸を打つ手記!

■目次
明日のために私は宣誓した;あの男が私のなかに入ってくる;言われるままにポーズを;愛の終わりは拒食症;本物の男ジャン=ミシェル;私は娼婦のジルダ;逃れられない麻薬漬けの日々;人生をやりなおすとしたら;地獄の禁断症状;子供が欲しい;“ならず者”の死、過去との決別;出産そして離婚;青い海と輝く太陽の島;政治の世界へ―穏健左派;命を生みだす幸せ;初めての議会演説「娼婦に人権を」;行動する娼婦たちの団体“アスパジー”;“愛すること”と“愛されること”を求めて

■要旨
私の歩いてきた道は困難なものだったし、これからも困難は続くと思う。私の傷ついた少女時代、ブリュッセルの夜、パリの歩道、コカインとそれに伴う地獄、その傷痕、喪の悲しみと愛の喜び―私は傷だらけなのだ。しかし私は生きている。危険のない人生などありえない。あとは夢が残っているだけだ。夢しかないと言えるのは、大勝利ではないか。―麻薬漬けの生活から立ち直り代議士になった元パリの娼婦がつづる、凄絶な半生。苦悩に満ちた過去を糧に人生を切りひらいた一人の女性の感動の手記。

 

 

娘たちへのまえがき

ジュディットとリザヘ

「いつか、あなたたちに私のやってきたことを話さなければいけない」といつも思っていました。
それは、あなたたちが生まれた日からずーっと続いています。
生まれるというのは、お母さんのお腹から外に出ることですが、それは同時にお母さんの生活のなかの大切な場所を占めることでもあるのです。
その重要な位置を占めている大切なあなたたちに、お母さんがどんなふうに生きてきたかをお話しするのは意味のあることだと思います。
でも、どうやって話していいのかわかりません。
私の生きてきた軌跡を話すのは簡単ではないのです。それはこの本を読んでいくとわかります。
そうです、本を書くことに決めたのです。
本にして説明すればわかりやすいだろうと思ったのです。
書くこと、それは私にはとてもシンプルなことです。書くことは自由で、誰からも「やめろ」と命令されません。
ひとりで書いていれば、「どうして、どうして」とせっかちな質問責めにあうこともないし、先を読まれることもありません。
過去の生活の〈騒音と沈黙〉だけを相手にしていればいいのです。
あなたたちはまだ小さいので、この本を読むのは無理でしょう。
だから、もっと大きくなってから読んでください。
でも、そのときのために前もって言っておくことがあります。
この物語には〈素敵な王子様〉や〈魔法使いのおばあさん〉が出てきますが、おとぎ話ではありません。〈魔法の馬車〉が出てきますが、この馬車に乗ってもどこにも行けません。
これはおとぎ話ではなく、実際にあった話なのです。いまのあなたたちと同じように、活発で元気な女の子の身に、実際に起きた話です。
この子は大きくなって、自分の名前をわざと変えます。
それは自分のことがわからなくなってしまうからです。
心のなかに重苦しい秘密、とても大きな傷ができて、前の名前を忘れたくなるのです。
それから男の人を好きになります。
死ぬほど好きになります一この愛には、いろいろな紆余曲折がありますが、結局、彼女の人生に暗い穴を開けます。女はこの深い穴のなかに五年間住みつづけます。
彼女はこの穴から出てきたあと、また別の人間になるために、長い道を歩かなければなりませんでした。
この女の子は私です。
でも、これは私だけの経験ではなく、ほかのたくさんの女の子の体験でもあるのです。
ニコルだけでなく、イザベルとかナタリーという名前の子もいるでしょう。
そして、みんな、それぞれ自分の名前を忘れたくなるのです。
それはそれとして、この本は私の遺書でもあります。
あなたたち娘に残す、私の生きてきた証しです。
はるか昔、ペルシアの有名な詩人、オマル・ハイヤームという偉い人が、
《幸せなれ、この一瞬。この一瞬、これこそが人生なのだ》と書きました。
この詩は、まだ五歳と十歳の女の子には、たいした意味はないかもしれません。
でも、大きくなったらわかるでしょう。
人生は短い一瞬にしかすぎないのです。
ですから、誰にも、あなたたちから、一瞬のそのまたひとかけらでも奪い去る権利はないのです。
このことだけは、どうしてもわかってほしいのです。
誰も他人の人生を横取りしてはならないのです。
どんな人も自分と同じような心と体をもっているということを、忘れてはいけないのです。
このことは誰に対しても言えることで、例外はありません。
そのことを知ってもらいたくて、私はこの本を書きました。
わかりますか、私の二つの愛、いとしいわが子たち、私がどんなにあなたたちを愛しているか、それをわかってもらうためにもこの本を書いたのです。


本文P6〜8より引用

 

 

 

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