クビキリサイクル
著者
西尾維新
出版社
講談社NOVELS/講談社
定価
本体価格 980円+税
第一刷発行
2002/02/05
ISBN4−06−182233−0
新青春エンタの傑作、ここに誕生。メフィスト賞受賞策!

西尾氏、イチ押し。――清涼院流水

絶海の孤島に隠れ棲む財閥令嬢が“科学・絵画・料理・占術・工学”、5人の「天才」女性を招待した瞬間、“孤島×密室×首なし死体”の連鎖がスタートする!
工学の天才美少女、「青色サヴァン」こと玖渚友(くなぎさとも)(♀)とその冴えない友人、「戯言遣い(ざれごとづかい)」」いーちゃん(♂)は、「天才」の凶行を“証明終了(QED)”できるのか?
新青春エンタの傑作、ここに誕生!第23回メフィスト賞受賞作。

理不尽な《首斬り》の横行する馘首(リストラ)時代。絶海の孤島に集められた世界的VIPの天才レディ×5と、お供達(フレンズ)。貴婦人の《首斬り》殺人が連続する。そのサイクルは?オーソドックスな本格ミステリのようで、様式美(パターン)を信仰して疑わない作家ロボットにはゼッタイ創れない物語。とっくに新時代は始まっている、と、今更ながら確信。新世紀のイメージ維新志士が、メフィスト賞から最前線に出陣。いーちゃん、いいじゃん。西尾氏、イチ押し。―――(清涼院流水)

 

■西尾維新(にしおいしん)
1981年生まれ。立命館大学在学中。2002年、本書『クビキリサイクル』にて第23回メフィスト賞を受賞、「京都の20歳」としてデビューする。

 

「他人を自覚的に意識的に踏み台にできる人間ってのは、なかなかどうして怖いものがあるよな」
そうだろうか。
ぼくには、無自覚で無意識で他人を踏みつけていく人間の方が、善意で正義で他人を踏み砕いていく人間の方が、ずっと怖いように思えるけれど。
「へえ。はは、さてはお前、いい奴だな?」
軽く笑われてしまった。
ぽくがいい奴なのかどうかは、しかし幸いなことにこの場合あまり関係ない。多分これは、考え方の違いではなくて、生き方そのものの違いだろう。
他人を踏みつける必要もなく存在している人間と、踏み台としてすら存在していない人間との、絶対的で絶大的な差異。
結局、そういうことだろうと思う。
たとえばスタイルを持たない画家。
たとえば辿り着き切った学者。
たとえば味をしめた料理人。
たとえば超越し過ぎた占い師。
あの島にいた彼女達はあまりにも違い過ぎた。
招かれる側も、そして招く側も、どちらもどちらにどうしようもなく異端で、どうにもならないくらいに異端で、どうする気にもなれないほどに異端で、そして異端だった彼女達。
手を伸ばしたその遥か先に存在し、脚を踏み出す気にすらならない距離を置いて、そこにいた彼女達。
そして。
「つまりだな。これは天才ってのは何であり、そして何でないのかって問題なんだよ。無能だったらそれはそっちの方がいいんだ。とんでもなく鈍感だったなら。生きている理由をそもそも考えないほどに、生きている意味をそもそも考えないほどに、生きている価値をそもそも考えないほどに鈍感だったなら、この世は楽園でしかない。
平穏で、平和で、平静で。
些細なことが大事件で、大事件は些細なことで、最高の一生を終えることができるんだろうよ」
それはきっと、その通りなのだろう。
世界は優秀に厳しい。世界は有能に厳しい。
世界は縞麗に厳しい。世界は機敏に厳しい。
世界は劣悪に優しい。世界は無能に優しい。
世界は汚濁に優しい。世界は愚鈍に優しい。
けれどそれは、それはそうと理解してしまえば、そうと知ってしまえば、その時点で既に終わってしまっている、解決も解釈もない種類の問題だ。
始まる前に終っていて、終わる頃には完成してる、そんな種類の物語なのだろうと思う。
たとえば。
「人の生き方ってのは、要するに二種類しかない。
自分の価値の低さを認識しながら生きていくか、世界の価値の低さを認識しながら生きていくのか。
その二種類だ。自分の価値を世界に吸収されるか、世
界の価値を殺ぎとって自分のものへと変えるのか」
自分の価値と世界の価値は、どちらを優先させるべきなのか。
世の中がつまらないのと自身がつまらないのと。
果たしてどちらの方がマシなのか。
その間に瞳昧や有耶無耶はないのだろうか。
そこに明確な基準はあるのだろうか。
二者択一の取捨選択だけなのだろうか。
選ばなくてはならないのだろうか。
「どこからが天才でどこからが天才でないのか」
どこからが本当で誰からが嘘なのか。
誰からが本当でどこからが嘘なのか。
質問しては、いけない。
にやり、とシニカルに笑われて。
「一で、お前はどうなんだ?」
それは。
(本文P.8,9)

 

 

 

 

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