狂牛病
 
  本書は、イギリスでの黙示録的現象の始まり、すなわち全国の牛に大被害をもたらし、人間にも広まるかもしれず、やがて黒死病以来もっとも感染力が強く、死亡率も高い疫病であることが証明される可能性のある死病について、詳しく、分かりやすく書かれている。海綿状脳症は牛から人間に種を越えて移るだろうか?あり得ないことではない。もしそうだとしたら、いつそれが明らかになるだろうか?21世紀に入る前後にイギリスで「狂牛病」が姿を現す可能性が高い。 こんなひどい状況にな:ったのは、どうしてなのだろう?本書を読めば、血も凍るだろう。怒りで血が煮えたぎるかも知れない。狂牛病をめぐる状況は悲劇であると同時に、スキャンダルでもある。  
著者
リチャード・W・レーシー
出版社
緑風出版
定価
本体価格 2200円+税
第一刷発行
1998/10/10
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ISBN4−8461−9819−7

序文

ジェフリー・キャノン

『狂牛病』はリチャード・レーシーの傑作だ。
イギリスでの黙示録的現象の始まり、すなわち全国の牛に大被害をもたらし、人間にも広まるかもしれず、やがて黒死病以来もっとも感染力が強く、死亡率も高い疫病であることが証明される可能性のある死病について、詳しく、分かりやすく書かれている。

「かもしれず」とか、「可能性のある」という表現に注意してもらいたい。
テレビを見ている人なら誰でも知っているように、海綿状脳症はイギリスでは少なくとも二〇〇年前から羊に見られた病気または症候群だ。
牛では一〇年前から流行していた病気で、この本が出版された一九九四年後半の時点では人間では珍しい病気だった。

羊や山羊の場合はスクレイピー、牛の場合は牛海綿状脳症(BSE)あるいは狂牛病、人間の場合はクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)と呼ばれている。
ニューギニアの部族病として報告された時は、クールー病と呼ばれた。海綿状脳症の特徴はいくつかよく知られているが、謎のままの部分もある。

生まれた時、または若いうちから感染しているようだが、ゆっくりとしか脳や神経系へと及んで行かないのが普通なので、大人になってからでないと姿を現さない。
牛肉を得るために飼育される牛のほとんどは、感染していても屠殺の段階では何の症状も見せないだろう。
人間の場合は、二〇年以上も潜伏する。

ひとたび発症すると、急速に悪化して痴呆状態になり、死亡する。
治療法がない。
解剖すると、脳がやられていて穴だらけだ。

つまり、「海綿状」だ。
この病気はエデンの園の地獄版みたいなもので、共通の起源があるのか、それともたまたまいくつかの種で起きたが複数の起源を持っているのか、誰にも分からない。
感染因子は何なのか、常に致死性の病気なのか、特殊な状況でのみそうなのか?

さまざまに説はあるが、確かなことは誰にも分からない。
海綿状脳症は種を越えて伝染するのか?
それは確かだ。

実験動物の脳に感染組織を注入することによって、すでに証明されている。
人から人へも移るのか?
それも確かだ。

(事故で)患者に感染組織を注入してしまった場合、感染した。
経口感染するのか?
それもほとんど確実だ。

感染動物の死体の一部を含む汚染されたごたまぜの飼料を与えたためにイギリスの牛に牛海綿状脳症が流行したというのが、通説となっている。
人間の場合は?
おそらくは。

ニューギニアで人肉食が見られなくなると、クールー病も姿を消した。
種を越えての水平感染だけでなく、垂直感染も起きるのだろうか?
つまり海綿状脳症は妊娠した母親の血流を通じて子宮へ、そして新生児へと移るのだろうか?

牛海綿状脳症の場合、今ではそれもあり得ることが分かっている。
汚染された飼料を与えられたことのない子牛たちからかなりの数の狂牛病が出るのか、獣医学者たちは何年も前から見守ってきた。
これらの子牛たちからも発症する牛が出ることが、一九九四年には確認された。

ほとんどの人が乳牛を、何らかの形で日常的に食べている。
肉として、また牛肉をハンバーガー、パイ、ソーセージなどの製品として、また、さまざまな加工食品に使われている臓物、脂肪、血液、その他の解体処理による食晶材料として。
ほとんどの人が酪農製品を食べ、牛乳を飲んでいる。

動物の病気で人間にも移るものは、幸運なことに、ほとんどない。
しかし動物原性感染症と呼ばれる一部のものは、人間にも移る。
狂犬病がそのひとつで、輸入された犬を検疫するのはそのためだし、狂犬病の兆候のある犬に咬まれると解毒剤を打つのも、狂犬が処分されるのもそのためである。
もうひとつの例は、人間に急激な腹痛や下痢を起こす家禽のサルモネラ感染症だ。

治療法のない致死性の狂牛病がそうではないことを願わずにはいられない。
海綿状脳症は牛から人間に種を越えて移るだろうか?
あり得ないことではない。

もしそうだとしたら、いつそれが明らかになるだろうか?
二一世紀に入る前後にイギリスで流行病として「狂人病」が姿を現す可能性が高い。
イギリス人がよくするように、人差し指の上に中指を重ねて、そうならないことを祈るとしよう。

後は結果が出るのを待つしかない。
こんなひどい状況になったのは、どうしてなのだろう。
レーシー教授の本書を読めば、血も凍るだろう。

怒りで血が煮えたぎるかもしれない。
狂牛病をめぐる状況は悲劇であると同時に、スキャンダルでもある。
リチヤード.レーシーはリーズ大学の医療微生物学者として有名だ。
彼が最初に国際的名声を獲得したのは、微生物の抗生物質耐性に関する研究によってだった。

 

 

 

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