声に出して読みたい日本語
 
  鍛え抜かれ、慈愛にみちた言葉を暗誦・朗誦すると心と身体が丈夫になる。 「あたりき車力よ」 「朝焼小焼だ 大量だ」 「春すぎて夏きにけらし白妙の」  この 日本語 知っていますか。  
著者
斎藤孝
出版社
草思社
定価
本体価格 1200円+税
第一刷発行
2001/09/18
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ISBN4−7942−1049−3

はじめに

この本は、暗論もしくは朗調することをねらいとして編んだものです。
したがって、ただ目で黙読するというのではなく、大きく声に出して詠み上げていってください。
第一章の始めから順々にやっていく必要はありません。

自分の興味が湧くものをピックアップして、それを何度も声に出して味わってください。
短いものや覚えたくなるものは暗誦し、長いものや覚えにくいと感じたものは詠み上げて朗諦を楽しむのでもよいと思います。
古いものには簡単な口語要約をつけましたが、言葉の内容にあまりとらわれすぎずに、まずは日本語としての調子のよさや語感を楽しむとなじみが早くなると思います。

一人で暗誦・朗誦に励むのもなかなか味わいのあることではありますが、親子や友人同士などでやるといっそう明るく楽しくできます。
ここに採録した文章はどれも調子がよいので、その文句に合ったリズムがだんだんわかってくると思います。
テンポを速くし歯切れよく言ったほうがおもしろいものがある一方で、息を深く朗々と歌い上げるほうがいいものや、しみじみとつぶやくように口ずさむのがふさわしいものまで、いろいろなタイプを選んでみました。

日本語を声に出すときのヴァリエーションは、実に豊かです。
歌舞伎や能・狂言、落語、文楽の義太夫節、琵琶法師の語り、物売りの口上、浪曲のうなり、和歌・俳句、詩吟など、プロの技にかかると、それぞれ違った魅力が出ます。
共通しているのは、声を腹からしっかり出し息づかいの技をこらすということです。

自分の息づかいを楽しむ要領で日本語のヴァリエーションを味わってください。
人によって調子のよいものが得意な人もいれば、しみじみと語るのが性に合っている人もいると思います。
お互いにあまり照れずに自分のスタイルで詠み上げてみると、自分ひとりでは気づきにくかった味わい方も見つけられると思います。

私自身の経験でも、友だちといっしょに覚えたのが思い出に残っています。
落語の『寿限無』や『般若心経』などは、小中学校のときにクラスで大流行しました。
『国定忠治』などは数人で役を振ってやるのもいいし、一人で何役も声色を変えてやるのも宴会芸として楽しいと思います。

テキストを選ぶ基準としては、まずこれまでに多くの人に愛諦されてきたスタンダードなものを選ぶことを基本としました。
「祇園精舎の鐘の声」(、平家物語)や「春はあけぼの」(枕草子)、藤村の『初恋』など、あまりにも有名なものも、今は皆が覚えているとはかぎらないので、採録しました。
古文の教科書のようになってしまうと、少々面白味に欠けるので、『がまの油』や早口言葉など、子どもが言葉遊びとしても楽しめるものをできるだけ採り入れてみました。

基本はリズム`テンポ・響きを楽しむということなので、いわゆる名文でも口に出してみたときにそれほど魅力的でないものは外しました。
私自身の思い入れが深いものも若干入れてしまいましたが、アンソロジーというよりは、暗誦・朗誦のための基本的なテキストとなるように心がけました。
文の並べ方は、時代順ではなく、意識的にバラバラにしてみました。

各章は、声に出してみたときの身心の感覚を主な基準としてグループ分けしたものです。
これも厳密な分類ではないので、気楽に自分のとっつきやすいところから入っていただければと思います。
この本は、読むというよりは、使い切ってもらうのにふさわしいものです。

とくに親子で暗誦文化をいっしょに楽しみ、継承していただければ最高です。
各文の出典は、巻末に掲載しました。
表記の仕方に数種類ある場合は、一般的に読みやすいもの、なじみがあるものを選びました。

表記は基本的に出典に従いましたが、振り仮名については現代仮名づかいに変えさせていただきました。
また、漢字は旧字体を新字体に改めたところもあります。
子どもでも声に出して読めるようにしたいという思いからです。


ご了承ください。
総ルビにしたのも同じ理由です。
ここにとりあげたものは、日本語の宝石です。
暗誦・朗誦することによって、こうした日本語の宝石を身体の奥深くに埋め込み、生涯にわたって折に触れてその輝きを味わう。
こうした「宝石を身体に埋める」イメージで楽しんでください。

著者

 

 

 

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