腕で歩く
 
  腕で歩く・・地雷で下半身を失いながら、こぶしで米大陸を走破した男の物語 何だってできる! やろうと思うかが、問題なんだ! ・・不屈とはこういう人のことを言うのだろう。地雷で下半身を失っても、人間として輝きと目標を失わない。希望を見失いがちなこの国の若い人たちに是非、読んでほしい。 筑紫哲也 ・・  
著者
ボブ・ウィーランド
出版社
竹書房
定価
本体価格 1400円+税
第一刷発行
2001/09/20
ご注文
ISBN4−8124−0798−2

パイオニア

2001年1月27日の夕方、私はロサンゼルスのボナベンチャー・ホテルにチェックインした。
ボブ・ウィーランドの家に電話したが、出ない。
携帯も留守電だ。部屋番号をメッセージに入れて、外に出た。

用事が二つある。
携帯を買うのとロス国際空港でレンタカーしてきた新車の「フォード・トーラス」をキープする交渉だ。
これから一人で、首都ワシントンまで5000キロのドライブである。
やはり新しい車がいい。

「新車の乗り捨てはだめだ」と空港では言っていたが、もう一度、かけ合おう。
ダウンタウンにあるボナベンチャー・ホテルは、まるで黒い、巨大な2本の筒だ。
エレベーターが上下するのが外から見える。

ハリウッド映画にもしばしば登場した。
15年ほど前、その最上階のラウンジで、よく遅い朝食を食べたものだ。
隣の高層アパートの19階に、私は当時、住んでいた。

朝日新聞のロサンゼルス支局長。単身赴任。
ホテルの近くで携帯電話を29ドルで買った。
月額19ドルの基本料金で、50通話くらい全米でかけられる。

日本のよりは、数倍重い。
ま、いい。
せいぜい2か月、使うだけだ。

ロスから、道に迷ったりで、実際には6000キロくらい走るかもしれない。
真冬である。中、東部の州は雪だ。
トラブルや強盗も怖い。

携帯は緊急時の命綱だ。
支払いを済ませて、出がけに、店員に聞いた。
「2か月ほどで日本に帰る。携帯のキャンセルはここに電話すればいいんかな?」

「いや、別に番号がある。でも1年以内にキャンセルすると、150ドルのキャンセル料がかかるよ」
「おいおい、そんなの初耳だよ。そんならレンタルしたほうが安い。1か月200ドルもあれば借りられる」
「もうあんたの番号登録しちまったから、だめだよ」2か月後、ニューヨークでキャンセル番号に電話した。

150ドルのほかに、携帯本体の値段が300ドル、計450ドル払え、なんていう。腹が立つから、そのまま、日本に持って帰ってきた。
月々の基本料金は払って、アメリカに行く友人に貸してやったりしている。
来春あたり、「キャンセル旅行」しなくては。

空港のレンタカー「ハーツ」では、うまく新車を手に入れた。
「4週問、借りるよ。長いから、なるべく新しい車を頼む」念を押す。カウンターのおじさんは、パソコンとにらめっこして、まだ1000マイル(1600キ日)ほどしか走っていないトーラスを出してくれた。「で、よその州で乗り捨てできる?」「ラスベガスに行くのか?」ネバダ州のラスベガス乗り捨てが多いらしい。ロスから4、5時間のドライブだ。「いや、もうちょっと遠いかな」「なら、この車はだめだ。カリフォルニア州に戻ってきて返すなら、どの州に行ってもいいけれど」「じゃあ、戻ってくる」とりあえず手に入れる。

キーをもらって、スーツケースを引っぱり、広いレンタカi駐車場の中を探す。フォード・トーラス「4」HN688」が静かに待っていた。シルバーだ。ハンドルを握ると、新車特有の匂いがした。最後はニューヨークのケネディ空港で返すつもりである。ボナベンチャーの向かいにマリオット・ホテルがある。そこにも「ハーツ」がある。「ニューヨーク乗り捨てはだめだよ。別のいい車を探しておくから、あしたきてくれ」

やっぱりだめか。
まあ、
待ってみよう。

ホテルに戻った。
ボブ・ウィーランド。最初に「彼」を見たのは、戦争中のベトナムだった。
1971年4月、戦火が激しさを増すサイゴン(現ホーチミン)に、私は朝日新聞のベトナム特派員として着任した。
レロイ通りのアパートに住んだ。

目抜き通りで、近くに米軍司令部やプレスセンター、ホテル、キャバレーなどが密集していた。
M16小銃を肩にかけた兵隊がたむろする町を、ベトナム人がバイクで気ぜわしく走り回っている。
アオザイ姿の少女たちが、米軍横流しの日用品を道に並べて、懸命に日銭を稼いでいた。

アパート3階の私の部屋は狭く、おまけに、隅っこに、砂袋を重ねた、炭焼きがまのような「防空ごう」があった。
砲撃など、いざという時に逃げ込むためだが、一人逃げ込んだとて、どうなるものでもなかった。
通りに面した窓にも、同じ砂袋が詰め込まれていた。部屋は穴ぐら同然で、ドアを開けて、外に出ると、いつも白い陽光にくらっとしたものだ。

プレスセンターで毎日午後4時から、米軍の戦況発表がある。それを手がかりに、私は仕事を始めた。
そんなある日、アパート近くの小さな通りで、私は不思議なものを見た。

 

 

 

・・・・続きは書店で・・・・

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