ああ言えばこう食う
 
  そこまで 言うか? ごぞんじ名コンビの傑作エッセイがついに文庫化 第15回講談社 エッセイ賞受賞作  
著者
阿川佐和子 壇ふみ
出版社
集英社/集英社文庫
定価
本体価格 514円+税
第一刷発行
2001/06/25
ISBN4−08−747331−7

はじめに

「あっち側」の少女   アガワサワコ

「アンタたち仲良しなんて言われてるけど、ホントはすっごく仲が悪いんじゃないの」と、言われたことがある。
「アンタたち」とは、もちろん「アタシたち」アガワサワコとダンフミのこと。
おっしゃったのは、かの名優、橋爪功さんだった。
とある小料理屋のカウンターでお酒を飲みながら、いつもの「よしない話」に花を咲かせていたら、突然、「さっきから見てるけど、二人とも相手の喋っていること、ぜんぜん聞いてない」と、図星をさされてしまったのである。
おっしゃる通りである。
二人とも、自分の口が開いていないときには、いかに相手の話に割り込むか……、そればかりを考えている。
「口から生まれた双子座」のダンフミではあるが、「天然の饒舌」アガワサワコには、ひっくり返ってもかなわない。
いきおい割り込みにも力が入る。
ヒトの話なんか、聞いちゃいられないのだ。
だが、「仲が悪い」と思ったことは一度もない。
アガワサワコは、ダンフミが二十代後半にしてようよう与えられた、天の恵みである。
ご褒美である。

「食べるのが好き」なのだが、食べれば腹が出たとおのれを恨む。
「喋るのも好き」に決まっているが、喋れば失言したと思い煩う。

「寝るのはもっと好き」らしいが、寝てはもう締切りに間に合わないと、うちひしがれる。
私とそっくりな不幸を、常時私の三倍ぐらい抱えてくれている。
こんなありがたい友達を、どうして粗末にできようか。

しかし、二人で「往復エッセイ」なるものを書き始めてからは、お互いの違いばかりが、きわだつ。
まず、神聖な原稿に向かう姿勢からして、まったく違う。
締切りが近くなる。
「今度は、どんなことを書く?」と、私が訊く。
「え-っ、な-んも考えてない」と、アガワが答える。
謙遜とか、遠慮なのではない。
驚くべきことに、本当に「な-んも」考えていないのである。
そこで私が、この一か月、みそぎをし、酒を断ち、ときには過食症になるほど自分を追い詰めて考えぬいたテーマを、おずおずと口にする。
「こんなんで、大丈夫?今度はアナタから始めるんじゃなかった?」
「大丈夫じゃな-い!」ど、たいていアガワは泣く。
「明日あさってと対談で、分厚い資料を読まなきゃなんないし、ほかに締切り三つも抱えてる。フミちゃん、先に書いといて」しかたなく、私が「後半」部分の原稿を先に書く。
私は恐るべき遅筆なのであるが、早く書かねばアガワに悪いという責任感にムチ打たれ、やっと下書きだけあげて、深夜、送る。
「え-っ、や-だあ。焦っちゃう」と、アガワが騒ぐ。私はほんのちょっとだけヒトに先んじたという喜びを感じつつも、「でも、まだ、これからいっぱい手を入れなきゃなんないから……」と、心をひきしめ、原稿の刈り込み作業に入る。
これはいらないと、あるセンテンスを切る。
再読して、やっぱり必要だと戻す。
しかし、なんとなく気に入らず、ほかの言葉に置き換えてみる。
だが、どうしてもピンとこなくて、もとに戻す。

 

 

 

 

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