愛するものを守るために 真実を口にする勇気は私に残された最後の楯でした  
著者
二谷友里恵
出版社
文芸春秋
定価
本体価格 1143円+税
第一刷発行
2001/5/20
ISBN4−16−357650−9

この世の中に感謝すべき対象は無数にあるけれど、まずそう思う自分が今、この日この時に存在している事に対する父と母への感謝、そして、唯一無二の私にとってかけがえのない二人の娘たちの生命をもたらしてくれたあなた、私は今でも、そしてこれからも変ることなく、心から感謝をしています。

ここに私が書いた事は、真実以下でも真実以上でもない、等身大の真実そのものです。
その真実が、あなたを傷つけてしまうとしたら、それは決して私の本意ではありませんが、あなたにもどこかに心の支えが有るように、私にも微力ですが守っていかなければならない人達がいます。

真実を口にする勇気は私に残された最後の楯でした。
この楯を、人を傷つけたり、何かを得たりするための道具としてではなく、その本来の用途である、「真に身を守る楯」として使うのであれば、神様も、そしてあなたも許してくれるのではないかと信じています。

二〇〇一年四月
二谷友里恵

 

序章

封印された二冊の本

私には、この後の生涯で、二度と読み返すことは無いと固く心に決めている本が二冊あった。
残念ながら、その二冊には今では嫌悪に近い苦い感情すら抱くまでになってしまっているが、理由はそれぞれ全く異なる。

一冊は、十年程前に自分が書いた『愛される理由』という本である。
あたまに拙著と付けることすら輝る程、今では自分にとっては遠い存在になってしまっていて、いつの頃からか、家の本棚からも物置きからも姿を消した。

あの本を書き終えた時、私は二十四歳だった。
世間知らずの私が本を出版し、それが自分の知らないところで版を重ねる度に、初めて世間というか、社会のお決りの法則、他人というものの恐ろしさを身をもって体験したのだった。

『愛される理由』の初版を手にした時、確かその終章にも書いたことを記憶しているが、当時なかなか会えなくなっていた学生時代の友人に宛てた長い手紙のようなものとして、また将来娘が大きくなった時に、母親の古いアルバムをパラパラとめくる様に読んでくれたら嬉しい、というような何とも内輪的な、私的な喜びにひたったものだった。

それが部数が素人には全く想像もつかない七十万部という数字を超えた頃だったか、私にとって人生を切り取った大切な"私的な覚え書き"は、完全に自分の手を離れて、もはや指先すら届かない遠い場所に一人歩きし始めたのだった。

十年たった今思えば無理もない事かもしれない。
鎧に刀で装備したマスコミや評論家が手ぐすね引いて待ち構える場所に、私は開ける扉を間違えてそこが戦場であることを認識もしないまま、浴衣にうちわの出で立ちで、のこのこと出かけていったようなものだったのだ。

世間にむけて何かを発表する時、それが作品でもアイデアでもビジネスモデルでも、自分自身だとしても、広く知られるところとなるということは、世間に受け入れられていくことではなく、はからずも世間に対して、結果的には出さなくてもいい挑戦状を叩きつけている事と同じなのだ、ということを私はあの本を出版したことによって初めて痛切に知った。

有名人の妻であり、自らも自分の名を冠してしまったブランドで身動きが取れない私が、一私人になりたいという叶わぬ、矛盾した夢を密かに持つようになったのもこの頃で、私にとっては辛く苦い思いと共に、自分の生き方のスタンスを変えるような、大きな意味を持つ一冊でもある。

しかし『愛される理由』は、何年か先、あの頃自分が受けた傷もいつのまにか風化して、雛寄ったその手に取ってまた頁を開く時が来るのかも知れない。自分のいちばん蒼い時代の拙さと、失った輝きを、溢れる懐かしさで許し、慈しめる時間が来るのかも知れない。

だが私の中で厳重に封印してきたもう一冊の本は、今回予想よりも数段早く、その禁を解かねばならなくなってしまった。
別れた夫が私たちの離婚の理由を書き綴って世間に公表した、『ダディ』という本である。

以下は、『愛される理由』のときには現実に立ち向かうことから逃げた私が、公人だった過去と訣別する前に、最後にたった一度だけ、ある覚悟をもって世間にむけて公表する、出血の真実の記録だ。

 

 

 

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